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ファンタジー/リプレイ

真夜中の炎

2008.02.15 記

目次

はじめに
キャラクター紹介

第一章
第二章
第三章
第四章
第五章
第六章
第七章
第八章
第九章(最終章)

はじめに

 このリプレイは、当サイトに掲載しているサンプルシナリオ「真夜中の炎」を遊んだ内容を、リプレイとして編集したものです。もし、あなたが、当該のシナリオをプレイヤーとして遊ぶ予定があるならば、今はまだ読まない方が良いかもしれません。

 なお、SSSは随時ルール改訂を行なっています。そのため、このリプレイの元となるセッションを遊んだ時点とでは、ルールが異なってしまっている可能性があります。

キャラクター紹介(イラスト:BLACK)

ラーケン・デュロイツ

ラーケン・デュロイツ 人間/男性/28歳  187cm/85kg 右利き
総合LV2  IQ4 DX6 ST7 WP4 VT6
衰弱20 昏倒28 死亡40
スキル
言語/共通語7
知識/伝承5、知識/罠5、知識/野外活動5、鑑定5
アクロバット7、ロープワーク7、罠操作7、縄抜け7、潜伏7、捜索5、第六感5
接近戦7(特化:剣、回避)
武装
レザーアーマー(4)、バスタードソード(7)
設定
 無闇にプロ意識の高いトレジャーハンター。骨董品を多く扱う商家の生まれ。店に寄せられる貴重な品々を見て育つうちに宝に対する憧れが高まり、ついにはそういうモノを探し求めることを生業とするようになる。
 基本的には善人であるが、目的意識が強く、あまり手段を斟酌するタチではないため誤解されやすい。
 口癖は「ちっ、これだから素人は…」である。

ジョン・ジョリー

ジョン・ジョリー 人間/男性/27歳 175cm/63kg 右利き
総合LV2  IQ7 DX5 ST4 WP5 VT7
衰弱15 昏倒25 死亡39
スキル
言語/共通語10、ルーン文字9
知識/一般8、知識/上流8、鑑定8
描画8、詩文8、捜索8、味覚8、蠱惑8
接近戦6(特化:回避)、武器投げ6(特化:細剣、棒状武器)
精神魔法9(特化:魔力付与)
武装
レザーアーマー(4)、ダガー(1)×5
呪文
ロック、エンチャント・ウェポン、プロテクション、テレキネシス、トランスファー・サウンド、センス・マジック
設定
 一見優男で内面も優男。子どものころは「神童」と呼ばれたが、今は「紙一重」と呼ばれ残念がられている。魔術師ギルドの学院在学中に芸術に目覚め、画家としての成功を志したが、家賃滞納で借家を追い出されて冒険者となる。
 トレジャーハンターをしているジョンジョリーナという名前の姉がいるらしい。
 彼の絵の具は、なぜかいつもビリジアンが切れている。

トリステル

トリステル エルフ/女性/52歳 163cm/39kg 左利き
総合LV2  IQ6 DX6 ST5 WP6 VT3
衰弱13 昏倒25 死亡31
スキル
言語/エルフ語9、言語/共通語7、精霊語8
知識/一般7、知識/伝承7
聞き耳8、第六感7、情報7、歌唱7、楽器7、信仰/リト7
接近戦7(特化:細剣、回避)
召喚魔法8、聖導7
武装
レザーアーマー(4)、レイピア(4)
設定
 詳細不明。自称「シティ派エルフ」。リト神に仕える初級神官だが、本人は土の精霊との交わりの方に関心が高い様子。才能ある若手として、神殿からの期待は大きいのだが…。
 体型ばかりでなく、その精神性においても掴みどころがない。良い意味でも悪い意味でも、動かざること山の如し。
 パーティ唯一の女性キャラクターとして、GMのセクハラの標的となる恐怖に怯えているとかいないとか。

第一章

(1)お金がない!

 フォーカードのメンバー4人は、この日2本目のセッションを敢行しようとしていた。
 メンバーの休日がバラバラなので、なかなか全員が揃ってセッションできる機会はない。そこで、朝から晩まで全員がオフの日は、がっつりとセッションを2発やっちゃおうという話になることがあるのだ。

GM  えー、ではダブルヘッダーの2本目を始めよう。前回の冒険(つまりこの日1本目のシナリオ)からは3D6日が過ぎている。どんなに仕事を探せど、その間はコレと言って何もなかった(キッパリ)。
ジョン  やぶから棒に何だよ、そりゃ。そんなに日数が経ったら、生活費がヤバいじゃないか。
GM  白竜亭は一泊二食付で7SP。他にもあれこれ金は要るだろうから、一日平均8SPくらい要るんじゃないかな。
トリステル  わたしは神殿があるから何とかなるけど、ラーケンさんとジョンさんは大変でしょうね。
ジョン  (ラーケン役のプレイヤーを指し)てか、あいつ寝てるやん。おーい、ラーケン! シナリオ始まったぞー!
ラーケン  …………ぐごー…………ぐごー…………ぐがっ。
トリステル  爆睡しちゃってますね(笑)。

 1本目のシナリオが終わったあと、少し遅めの昼食をとった4人。腹もふくれて、午睡にはちょうど良い時間帯ではある(苦笑)。

GM  昨晩も遅かったんだろう。まぁ、じきに起きてくるさ。まだ重要な場面じゃないから、もう少し寝かせとこう。
ジョン  しかし3D6の出目によっては、ある意味、重要な場面に早変わり(笑)。
トリステル  では、ダイス、振っちゃいます。とりゃ〜! ……えーと、9です。
GM  9日か。切り詰めても6GP、それなりにまともに過ごすなら10GPってとこかな。
ジョン  うを〜、キワドイー。
トリステル  わたしは生活費が少なくて済むぶん、フィールズ施療院に寄付します。端数を落とす意味でも、5GPと4SPほど。

 フィールズ施療院については、リプレイ「魔術師の宝」を参照のこと。

ジョン  オレは他人に施してる場合じゃないな。こりゃ、マジで本腰入れて仕事を探さないと。
GM  生活するので精一杯やね、このパーティ(笑)。
トリステル  どのシナリオも報酬が少なかったですからね。
ジョン  いや、そうでもない。さっきのシナリオでは奥に色々あったのに、皆が引き返したから。おかげでNPCとして参加していたジョン君も、スクロールにありつけなかったんだぞ(苦笑)。

 さっきまでプレイしていた1本目では、ジョン役のプレイヤーがGMをやっていたのだ。この2本目のシナリオでは、1本目でプレイヤーをしていたメンバーがGMを務めている。
 フォーカードでは、同じ舞台・同じ登場人物を使って各人がGMを交代で務める「マスター回し」という遊び方をしていて、こんな感じでシナリオのたびにGMが入れ替わることがある。この遊び方には「キャンペーンシナリオがやりにくい」「GMをやるときのマイキャラの扱いが難しい」などのデメリットはあるけれど、マスタリングの負担を持ち回りにすることで、誰もが定期的にプレイヤーを楽しめるように配慮しているのだ。
 実はこのGM、先日のシナリオ「魔術師の宝」でもGMを務めている。だから、本来はGMをやる手番ではないのだが、ラーケン役とトリステル役がGMの準備をできる状況になかったので、急きょ繰り上げ登板となった。

GM  「ハンタスのアミュレット」も換金してないしね。好きで貧乏してるんだよ、君たちは(笑)。
トリステル  (ラーケンのキャラクターシートを覗き込んで)そういえば、ラーケンさんも懐具合が厳しいはずじゃ。
GM  そうだ、忘れてた。ラーケンの所持金からも、適当に生活費相当を削っておいてよ。
ラーケン  (むくりと起き上がり)俺の金がどうしたって?
ジョン  金を減らされると聞いて起きてきたか(笑)。
ラーケン  何や何や。何がどうなってる?
GM  1本目のシナリオから9日が過ぎていて、みんな生活費が心もとなくなってるんだ。
ラーケン  アカンやん、仕事を探そうぜ。えーと、とりあえず白竜亭。いつものようにホワイトさんに「何か情報ないか?」と訊く。
GM  いつものように「何もないよ」と答える(笑)。

 冒険者が酒場で仕事を斡旋してもらうというSWスタイルは、個人的にはあまり好きじゃない。
 ここはフォーセリアにあらず。そんな便利な派遣会社的システムは存在しないのだ。うけけ。

ジョン  やばいよー、金ないよー。いよいよ絵でも描くか。道端で似顔絵(笑)。
GM  そういうモノに金を出す人は、道端では見つからないでしょ。もっと生活が潤ってる時代ならともかく。
ジョン  ち。こうなったら、憶えたばかりの「クリアボイアンス(透視)」を悪用してやるー。オレが女性を見つめているときはヤバいと思ってくれ(笑)。
ラーケン  ジョン、おぬしもエロよのう(笑)。
ジョン  冗談はさておき、「クリアボイアンス」のスクロール、憶えずに売れば良かったかなぁ。
トリステル  9LVの呪文なので、9×9×9=729SPで売れますからね。

(2)不穏な噂

 はやく仕事を探さなくちゃならないのだけれど、その後しばらくは相談とも雑談ともつかないような停滞状態に。
 プレイヤーが寝起きのせいか、珍しくラーケンのフットワークが鈍い。パーティの牽引役でもある彼がこのコンディションだと、苦戦は必至だ。
 一応、トリステルが神殿で何か変わった情報がないか調べてみるが、いたって平穏で事件も何もない。

ジョン  よし! 用はないけど、魔術師ギルドの図書館にでも行ってみよう。
トリステル  何しに行くんですか。
ジョン  別に。目先を変えたいだけ。
GM  では、ジョンは魔術師ギルドの開架図書館にやってきた。あたりには勉強している学生や、身なりの良い市民がチラホラ。
ジョン  最初は真面目に学術書などを物色していよう。だが、いつのまにか財宝などの一攫千金系の書架へと……(笑)。
ラーケン  すっかり「冒険」の魅力にハマっちまったか(笑)。
GM  じゃあ、そんなふうにブラブラとしてるなら、【聞き耳】で判定ロールだ。ただし、無意識なので−2してね。
ジョン  【聞き耳】は持ってないが、IQが高いからな。ベースは3(=7÷2、端数切捨て)か。
トリステル  いや、レザーアーマー着けてるんで、−1されますよ。無意識のペナルティもあるから、ベースは3−1−2=0ですね。

 うむ。GM以上にルールに詳しいヤツがいると、実に助かる(笑)。

ジョン  てことは、2D6のみか。ていっ……10が出た!
GM  じゃあ、微かにだけど、魔術ギルドの学生風の二人組がヒソヒソ話してるのが聞こえた。「あいつらは所詮……街から追い出せば良いのに……社会のダニ……」とか何とか。
ジョン  物騒な物言いだな。何の話だろう?
GM  さらに意識して【聞き耳】してみて。
ジョン  いや、「トランスファー・サウンド」を使ってみよう。
ラーケン  おお、まるで魔法使いみたいだ(笑)。
ジョン  たまにはな(笑)。図書館ではお静かに。というわけで、チャントとモーションを欠いた状態で呪文を使うぞ。

 「チャント」とは、呪文を声に出して唱えることだ。一方の「モーション」は、呪文を使う際の身ぶり手ぶりのこと。これらを欠いて呪文を行使すると、呪文の行使にマイナスの影響が出る。
 まず、チャントがないと発動に必要な時間が倍になるし、モーションなしだとロール値に−2のペナルティを受けてしまう。まぁ、これだけなら、時間が十分にあるときや相手に抵抗される心配がない呪文などでは、さほど苦にならないかもしれない。しかし、チャントやモーションを欠いたときのペナルティは、これだけじゃないんだな。
 通常なら判定ロールで1ゾロを振ったときのみが自動的失敗なんだけど、チャントもしくはモーションが欠けているときには4以下で、両方が欠けているときには6以下で自動的失敗になってしまう。しかも、チャントとモーションの両方を欠いた状態で呪文を唱えると、必要な疲労が2倍になるというオマケまで付いている。

GM  大丈夫か? まだ危険なことは起きないと思って、無茶してるな?
ジョン  せこく魔法の杖は握っておくぜ(笑)。……よし、出目9。問題なく成功したはず!
GM  ではこんな言葉が聞けるね。「そもそも例の孤児院のヤツら、野蛮なんだよ。育ちが悪いと嫌だねぇ」「てか、何だよ、あの女神官は。余計なことして、聖母さま気取りかっつーの。くすくす」
ジョン  そんな酷いこと言ってるのか。これってあれだよな、フィールズ施療院のことだよな。
ラーケン  世話になってるだけに、気分の良いもんじゃねぇな。
ジョン  その学生風の二人組って、オレが学院にいたころに見かけたことない?
GM  ないよ。ただ、身なりからして魔術師ギルドの生徒に間違いない。
ラーケン  学生さんだとよ、誰かさんと違って挫折してない方のな(笑)。
ジョン  ほほう(こめかみヒクヒク)。では、挫折を知るオレ様が若造どもの鼻をへし折ってやろう。喰らえ「テレキネシス」! うりゃー、ヤツらのインク壺を引っくり返してやるぜ!
トリステル  マジですか? やめときなよー。
ジョン  いやいやウソウソ。やんないよ、さすがに(苦笑)。
ラーケン  やれよぅ。どうせなら「ふぁいやーぼるとー!」とかド派手なのをよぅ。
GM  「じきに閉鎖するのは時間の問題だろ。あいつらの仕業に決まってんだから」なんてことを軽薄な調子で話してる。
ジョン  一応、そいつらの人相と名札に書かれた名前をチェックだ。
GM  (学生に注意が向いたか。エキストラとして即興で登場させただけだし、変な方向に向かれても困るな)あー、AさんとBさんだ。もう話題は違ったほうへと流れていくよ。
ジョン  何だったんだろう、何となく心配だな。最近になって施療院で聞いた話とか、ピンと来るようなのはない?
GM  このところ、ジョンはソフィアさんに会ってない。「クリアボイアンス」を覚えたから、誘惑に負けそうな自分が怖いんだろう(笑)。
ジョン  なるほど。なにしろ今だって透視中だからな、オレ(笑)。
トリステル  いやーん、嫌すぎるー(泣笑)。

(3)フィールズ施療院へ

 学生たちの差別まじりの噂話が気になったジョンは、ソフィアさんの裸を透視しようと様子を見にいこうと施療院へと向かう。そしてそこで「無償で施療院を手伝っています」というトリステルと鉢合わせになった。
 ちなみに、この時点ではラーケンはまだシナリオ的には絡んできていない。食費を浮かせるつもりなのか、町はずれの林などにトラップを仕掛けて兎とかを獲っているらしい(笑)。眠いのか、本格稼動までに時間が掛かっているようだ。まぁ、ラーケン役のプレイヤーは何なりとやってくれるタイプだから、GMとしては気にしていない。放っておいても、頃合に巧く絡んできてくれるだろう。

トリステル  やぁやぁ、ジョジョさん。
ジョン  ジョジョって呼ぶな。
ジョン以外の全員  えーーーーー! あんたがそう呼べって言うたやん!(笑)
ジョン  何か逆らいたい気分やってん(笑)。
トリステル  せっかくお望みどおりに呼んであげたのにぃ。
ジョン  すまんすまん。よう、トリステル。今日来たのは実は、かくかくしかじか。
トリステル  そういえば最近、ソフィアさん、元気ないような……。わたし、街中で何か小耳に挟んでないかな。【情報】スキルを使ってみたいんですが。
GM  (あまりそういう使い方はして欲しくないんだけどなぁ)じゃあ、一応振ってみて。
トリステル  はいはーい。(ころころ)うわ、出目悪っ。
GM  それじゃあ特に思い当たることはないね。

 いま思い返してみると、この辺りのマスタリングは不適切だった。本来ならば、【情報】スキルを「受動的アンテナ」として認めるのは無理がある。このスキルは、あくまでも「ある事柄」についての情報収集・伝達を能動的に行なう熟練度を指すものだと解釈して、能動的に情報を収集するような場面でのみ判定を許すべきだ。
 また、安直に【情報】スキルで情報を与えすぎちゃうと、プレイヤーの「知恵」の見せ所がなくなっちゃう。情報収集のシーンを省略したいときとか、資料から必要な情報をピックアップするとか、一日で聞き込みできる人数などを判定するとか。そういった局面以外では、あまり【情報】スキルを乱用しない方がベターじゃないかな。

トリステル  うーん……仕方ない、ソフィアさんに直接あたってみます?
GM  彼女は診療で大忙しだよ。
ジョン  そういや、カルロス爺さんって生きてるのか? 確か末期の病気だったよな。

 情のないことを言うなよ(苦笑)。

ラーケン  生きてるだろ。俺は毎晩、爺さんに偵術を教わってるぜ。
GM  うん、生きてる。そうやってラーケンを教えているときに、ときどき何か相談したそうな素振りを見せることがあるよ。
ラーケン  ほほう。
トリステル  うーん、今はまだ昼間でしたよね。子どもたちの様子はどうです?
GM  院では、年長者が年少者の面倒を看ることになっているらしく、忙しそうにしてる子も多いね。
ジョン  「こらー、チビどもぉ! 大人しくしろぉ〜!」「誰だ、壁に落書きしたのはー!」(笑)。
GM  そうそう、そんな感じ。ソフィアさんの助手を務めている子とかもいるよ。全体的に騒々しいしバタバタしてる感じだ。
トリステル  これはちょっと……施療院が閉まるのを待ったほうが良さげですね。
ジョン  だな。邪魔になったんじゃあ、本末転倒だ。
GM  了解。では君たちは、施療院が閉まる日暮れ頃まで待ってみることにした。
ラーケン  日が暮れたんなら、俺は獲れた兎だのを施療院に届けに来るぜ。
ジョン  よう、ラーケン。
ラーケン  おう、どうした。ここで会うのは久々だな。トリステルもいるじゃねぇか。
ジョン  いや、実はな。こうこうこういうことがあってだな、ちょっと気になってきてみたんだよ。
トリステル  わたしはよく施療院を手伝いに来てるんですけど、最近ソフィアさんも元気がないみたいで……。
ラーケン  そういや、カルロス爺さんも何だか妙な感じだったな。ちょうどこれから爺さんに会うつもりだったんだが、一緒に来るか?

 さぁ、これでようやく全員が合流できた。とはいうものの、どういうわけだか随分と導入部でもたついた感は否めない。
 リプレイを書くために録音データを聴いていると、マスタリングの拙さがよく分かる。「図書館で聞いた噂」だけでは、PCたちが積極的に動き回るモチベーションとしてはあまりにも弱すぎるのに、プレイヤー任せで話を動かそうとしている。これは明らかにGMのミスだ。
 久しぶりのシティアドベンチャーということで、匙加減を誤って、情報を出し渋りすぎている節もあるしね。

ラーケン  おぅい、爺さん、いるかぁー?
カルロス(GM)  おお、来たか、ラーケン。今日は前回の復習からじゃ!(笑)
ジョン  嬉しそうだな、爺さん(笑)。
カルロス(GM)  そりゃあ、後継者ができたら張り切りもするわい。さぁ、やってみるんじゃ、ラーケン!
ラーケン  おいおい、俺ァ泥棒家業を継ぐつもりはねぇぞ、言っとくが(苦笑)。

第二章

(1)自立できない大人たち

 かくして、師弟間の温度差を感じながらも、はりきり爺さん(カルロス)が用意したダミーの錠前に取り組むラーケン。ここらでGMは、シナリオ上のある「重要人物」のひとりを登場させて、顔見せを済ませておくことにした。

GM  さて、君たちがカルロスとうだうだやってると、だ。えー、何やら背後で視線を感じる。
ラーケン  誰だ、ドアを開け放してたのは。こう見えても盗みの技を伝授してもらってる最中なんだぞ(笑)。
GM  (う、確かに。ドアが開け放しなのは不自然だな。ま、良いや、スルーしちゃえ)振り返ると、ドアの外に十代半ばの大柄な少年が立っている。
トリステル  わたしたち、見かけたことのある子ですか?
GM  最近になって施療院で暮らすようになった子で、わりと整った顔立ちだけど額に酷い刀傷がある。気だるそうな表情だし、あまり良い印象は受けないね。
ジョン  このくらいの年頃は、難しいからなぁ。どうした、オレたちに何か用か?
GM  「別に。何でもないよ」とぶっきらぼうに言うと、少年はどこかへ行ってしまう。
ラーケン  追いかけたいところだが、そうする必然的な理由はないからなぁ(苦笑)。
トリステル  刀傷って、真新しいものでしたか?
GM  いや、傷跡としてしっかり残っちゃったけど、すでに治ってるようだったね。
ジョン  他にも傷跡があったりしてなかったか? 拳とか腕とか。
GM  (ありゃ、しまった。完全に少年に気をとられちゃったか!)さぁね。じっくりと見たわけじゃないから分からない。
ラーケン  プレイヤーとしては少年が気になるんだが(苦笑)、仕方がないので爺さんから熟練の技をみっちり教わっておこう。
ジョン  すっかり泥棒としての風格が出てきたな(笑)。
トリステル  しかしこれは……どうも手詰まりというか、取っ掛かりがないというか。どうしたもんでしょうね。

 すまん、手掛かりが少ないのは、ここまでのGMの話の運びが下手糞だったからだ(汗)。
 しかし、君たちだって問題アリだぞ。少年に気をとられて、カルロスに接触した目的をすっかり忘れちゃってるし。

ラーケン  プレイヤー的発言で申し訳ないが、こういうときは時計を進めてみるのも手だぜ。まずは、晩メシまで待ってみねぇか。
ジョン  異論はない。異論はないが、なんかこう、メシ狙いで粘ってるみたいに見えないかな、オレたち(笑)。
ラーケン  馬鹿野郎! 俺は一応ときどき食材を提供してるんだし、たまにゃあご馳走になっても良いんだよ。
トリステル  わたしもときどき寄付をしてるし、診療も手伝ってますよ。
ジョン  何だよお前ら、そのプレッシャーのかけ方は(笑)。
ラーケン  いやー、我われは自分のスキルを活かして施療院のために尽くしている。そう思わんかね、ジョン君?
ジョン  ちくしょ〜。オレだってビリジアンさえあれば!(笑)
GM  絵の具の一本くらい買えよ、はやく(笑)。

 こうして、とりあえずは夕食をご馳走になることにした3人。無事にタダ飯にありついた金欠トリオが次に狙うのは……。

GM  長テーブルでささやかな夕食だ。その席で、ソフィアさんは「皆さん、泊まってってくださいね」と言ってくれるよ。
ラーケン  お言葉に甘えよう。夜中の様子を知ることができるからな。一泊分のカネが浮いてラッキー! ……なんて思っちゃいねぇぜ(笑)。
ジョン  計算どおりだな(笑)。
GM  では計算高い君たちに、客室があてがわれる。ラーケンとジョンは同室。トリスは別室だ。
トリステル  あ、わたし、子どもたちと同室で寝ようかと……。
ジョン  やめとけよ、年頃の少年とかもいるんだぞ。読者が喜ぶような間違いが起きないとも限らない。
ラーケン  誰よりもGMが喜ぶという説もあるが。
GM  うん、まぁ、否定はしないが。
トリステル  それはイヤすぎるので、やっぱ部屋を借ります(笑)。そういえば、この施療院って何歳くらいまでの子たちが入っているんでしょう?
GM  だいたい15歳前後くらいで社会に出て、自立していくようだね。
ジョン  むう、27歳(笑)。
ラーケン  むう、28歳(笑)。自立できてねぇな、俺たち(泣笑)。

 まったくだ。孤児院に押しかけて、晩メシおごってもらうわ、寝泊りさせてもらうわ……。情けないぞ、冒険者たち!

(2)ソフィアさん、萌え

 シナリオの概要がなかなか見えてこないので、PCたちは再び時計を進めることに。特に何も起きなければ、そのまま朝を迎えようかという勢いだ(笑)。

GM  では夜中の……(ころころ)大体23時頃だ。まだ3人とも眠っていないってことで構わないけど、無意識(ペナルティ−2)で【聞き耳】の判定ロールをどうぞ。
ジョン  8だ。無意識じゃあ成功できる気がしない。
トリステル  エルフの耳(注:エルフはもともと【聞き耳】スキルを持っている)に任せてちょーだい。(ころころ)13です。
ラーケン  うわ、ピンゾロ! すげー、俺、何もしてないのに疲労してるぞ(笑)。うーん、うーん、何か疲れたー(笑)。
GM  変な霊を背負ったラーケンは置いといて(笑)、トリステルだけがミシミシという小さな足音に気づく。
トリステル  おや。どんな感じです?
GM  えーとね、君たちの部屋は1階なんだけど、誰かが階段をソロリソロリと降りてきたような感じだ。
トリステル  誰でしょう? 部屋のドアまで行って、少しだけ隙間を開けて覗いてみます。
GM  そのアングルからでは人影は見えなかった。もうどこかへ行ってしまったのかもしれない。
トリステル  いったい誰でしょう、こんな夜中に。ぶつぶつ言いながらベッドに戻ります。
GM  (……え、それだけ? 調べに行かないの?)

 どうやら完全に歯車が狂い始めたらしい。よりによって、イベントトリガーを引いたのが「動かざること山のごとし」のトリステルとは。
 PCたちはいわゆる「待ちモード」に入ってしまったようで、このままだと無駄に時間だけが過ぎていく。それはそれでやむなしとするプレイスタイルもあるだろうけれど、GMは強引にシナリオを活性化させることを決断。序盤の拙いマスタリングでプレイヤーの集中力がダレてしまった感があるし、ちょっとリカバリーが必要だろうと判断したのだ。

GM  さらに1〜2時間くらい経ったころだね。もう眠ってた人もいるかもしれないけど、ドスンバタンガラガラガッシャーン! と盛大な音がするぞ。
ラーケン  そりゃあ、目が覚めるわなぁ、普通。
トリステル  むにゃ、何、何? 何の騒ぎですか?
ジョン  ベッドから起き出して、音の元凶を確かめに行くぞ。
GM  目を覚ました子どもたちが騒ぎ出していて、「何の音ー?」「院長先生の部屋のほうじゃない?」などと囁きあっているね。
ラーケン  よし、ソフィアさんの部屋へ急行するぜ。
GM  駆けつけた君たちがドアを開けると、中は真っ暗だ。誰かが手にしているであろう燭台の灯りだけで部屋の中を照らしてみると、床にソフィアさんが倒れていて、床に物が散乱している。
ジョン  や、やばくないか、コレ?
GM  いや、ソフィアさんはドアが開けられたことに気づくと「ああ、みなさん、ごめんなさい。みんなもごめんね」と照れたように詫びるよ。
トリステル  良かった、生きてますよ。これは一体どうしちゃったんですか?
GM  ソフィアさんは自室でデスクワークをしていたんだけど、突然ロウソクの炎が消えてしまったらしい。鎧戸も閉めていたので一瞬で真っ暗闇になり、慌てて手探りで動いていたら派手にコケてしまった、と。
ジョン  なんと人騒がせな。
トリステル  まぁでも、何事もなさそうで良かったですよ。

 とりあえずソフィアさんに怪我はないということなので、子どもたちはぞろぞろと自分たちのベッドへと帰っていった。
 そして、肝心のPCたちはというと……。

ラーケン  ところで、ソフィアさん、やっぱ寝間着姿だよな。
GM  (まさか……)ガウンとかを羽織っているだろうけど、その下は寝間着だよ。
トリステル  ちょっと! いやらしい目で見ないでくださいよ、ふたりとも!
ラーケン  そりゃあおめぇ、男なら見ちまうだろうよ、そういう目で。
ジョン  だな(嬉しそう)。ソフィアさんって四十路に見えないくらい愛らしいんだよな、確か。「クリアボイアンス」で透視するか(笑)。
ラーケン  呪文なんかの力を借りなくても、男だけが持つ魔法の目で、俺の脳内じゃとっくの昔に素っ裸だぜ!
トリステル  ホント、サイテーだ、このふたり!

 まったく、金欠だということも、仕事がないということも忘れて、何をバカなことをやってんだか、こいつらは(苦笑)。
 ちなみに、ソフィアさんはボクのものだから汚させやしないぞ。ずばりイメージは原田知世さん。年齢を感じさせず、可愛い色香が漂う大人の女性なのだ!(力説)

(3)連続不審火

ジョン  おっと、そうだ。起きてきた子どもたちの中に、例の刀傷の少年はいたのかな?
GM  (む、鋭い!)そう言われてみれば、姿は見えなかったような気がする。
ラーケン  そういや、カルロス爺さんは来てたのか?
GM  いたよ。心配そうにしていたけど、安心したのか今はもう部屋へ戻ったみたいだ。
トリステル  あれ? 夕方は結局、カルロスさんの話を聞きそびれたんでしたっけ?(汗)
ジョン  だな。うっかりして訊くのを忘れてたなぁ……よし、今ならまだ起きてるだろう、もう一度部屋を訪ねよう。
GM  (今回は珍しくジョンがパーティを引っ張ってるな)おっけー。では、カルロス爺さんの部屋へと場面を移そう。
ジョン  すまん、爺さん。ちょっと訊きたいことがあるんだ。
カルロス(GM)  おう、お前さんらか。どうした。
ジョン  実はこうこうこういうわけでな、何か思い当たる節はないかと思ってさ。さっきだって、ソフィアさん、疲れてるみたいだったし。

 何か力になれることがあるかもしれないから話してみろと迫るPCたちに、カルロスは重い口を開く。本当は、ソフィアさんに「余計な心配をさせないで」と口止めされていたらしい。
 カルロスの話によると、このところ施療院で夜な夜な不審火が続いているという。今のところはボヤ騒ぎで済んでいるが、2日に一度くらいのペースというから尋常じゃない。当初は「外部の者による嫌がらせ」と見られていたけれど、建物の中で出火したことがあったため、今では孤児のなかに犯人がいるのではと疑われているらしい。

GM  カルロスの話を聞いて、室内にも少し煤けたような壁とかがあったことを思い出す。「てことは、あれがボヤの跡だったのか……」みたいな。
ジョン  屋外でもやられてるんだよな?
GM  そうだよ。しかも、堂々と通りに面した場所とかも燃やされてる。
ラーケン  ち、これだから素人は。
ジョン  うおーい、ラーケンが何やら放火のプロみたいなこと言ってるぞ(笑)。

 我ながら、ひどい追っつけの仕方だ(苦笑)。
 本当はPCたちが施療院を訪れた段階で、こういう描写をしておくべきだった。そうすれば、疑問に思ったPCたちがアクションを起こすのは簡単だったはずだ(反省)。

GM  この辺はあまり治安が良くないし夜は極端に人通りが減るから、目撃される心配が少ないのかもしれないね。
ジョン  うーむ。屋内の方は、「センス・マジック」をかけて見て回れば何か手掛かりが見つかるかもな。
トリステル  「センス・マジック」は10ラウンドしか持続しませんよ。
ジョン  10ラウンド……って1分くらいか。ダメじゃん。
ラーケン  ヨーイドン! で、必死に走れば良いじゃねぇか。
トリステル  何度も呪文をかけまくれば良いじゃないですか。
ジョン  てめぇら、他人事だと思いやがって!(笑)

 このくだり、一見バカ話をしているように見える。
 しかし実は、しっかり「超常的な力が関わってる可能性」を疑われてるんだよね。ちょっと簡単すぎたかなぁ……とほほ。

カルロス(GM)  もちろん、ソフィアさんは子どもたちを一切疑っておらんが、偏見にさらされて、かなり疲れているようじゃ。
トリステル  うーん、これは何とかしてあげたいですね。交代で不寝番を立ててみましょうか。
ジョン  とはいえ、火を点けられるのが建物の内か外か分からないんじゃ、やりにくいんだがなぁ。
ラーケン  屋外の方は、犯人が出入りしそうな場所を見繕って、俺が鳴子でも仕掛けてみるぜ。
ジョン  そういやさ、トリステルって人間でいえば13歳くらいだよな。こいつを子どもたちの中に放り込んでみるってのはどうよ。
トリステル  えー、子どもたちを疑ってるんですか?
ジョン  いやいや、何か意外なことを知ってるかもしれないだろ。それに「子どもの火遊び」の可能性を完全に度外視するのは早計だろ。
ラーケン  大人になってからの「火遊び」なら火は要らないんだがな(にやにや)。

 おいおい、またエロ話かよ(苦笑)。

トリステル  でも確かに、子どもならではの情報網があるかもしれませんね。
ジョン  世代が近いし、オレたちよりは子どもから話を引き出しやすいだろう、きっと。
ラーケン  よし、整理するぜ。まず俺は鳴子を仕掛ける。そして、トリステルは子どもたちの輪に入って情報を収集する。(ジョンを見つめて)……で?
ジョン  ん、何?
ラーケン  いやいや、ああしろこうしろと言うけれど、ジョン君は何をしてくれるのかなぁ、と(笑)。
ジョン  オレなぁ、何しようかな……。ここはやはり、ソフィアさんに付きっきりで――。
GM  却下!
ジョン  むぐぐ、仕方がない。では、果報を寝て待つことにしよう(笑)。
ラーケン  ふんぞり返って頭脳労働者気取りか、この野郎!(笑)。

 事件の概要が見えてきたことで、いろいろと方策を練り始めた3人。しかし、いかんせん今は真夜中。今晩はもう何事も起きないことを期待して睡眠をとり、実際にアクションを起こすのは明日以降ということに決まった。

第三章

(1)舘と猫

GM  では、時計を進めよう。何事もなく翌日を迎えてくれ。
ラーケン  よし、さっそく俺は建物の周囲をチェックして、鳴子を仕掛けられそうな場所の見当をつけておく。材料も適当に集めとくぜ。
トリステル  わたしは、女の子たちのグループに混じって、家事を手伝います。噂話を集めるなら女の子でしょ、やっぱり(笑)。
ジョン  オレはふんぞり返って……ってわけにもいかんだろうから(笑)、トリステルの仕事ぶりを遠巻きに見ていよう。
トリステル  それはそれでどうかと(苦笑)。
GM  では、トリステルは家事を手伝う傍ら、女の子どうしの会話に耳ダンボね。で、「やっぱりアイツよ。アイツが来てからだもん、物騒なことが起きはじめたのって」などと話しているのを耳にする。
トリステル  おやおや。「アイツ」って誰のことでしょうね。
ジョン  そうやって噂話をしている近くに、うつむいて哀しそうにしてる女の子がいるはずだっ(笑)。
GM  (それ、いただき)うん、いるよ。
ジョン  おるんかい!(笑)
GM  哀しそうというか、「きゃあきゃあ」と手の二倍くらい口を動かしている女の子たちから少し離れた所で、黙々と針仕事をする少女がいる。
トリステル  ではその女の子の隣に座りましょう。で、針仕事を手伝います……って、そんなスキル持ってませんけどね(苦笑)。
GM  まぁ売り物を縫うわけじゃないから大丈夫。ガキ裂きの繕いとか、そんなレベルなら神殿の仕事にもあるはずだよ。

 「スキルとして習得していない」ことを、すべて「できない」ことと解釈する必要はない。
 例えば、裁縫をきちんと習っていなくても、普通はボタン付けくらいはできる。このあたりは、常識を働かせて判断しちゃえばOKだ。

トリステル  会話にあったように、彼女は最近になってここへ来たんですか?
GM  いや、よくは知らないけれど、それなりに長くこの院で暮らしているようだね。
トリステル  つまり「アイツ」ってのは、この女の子じゃないってことですよね。
ラーケン  隣の女の子に「アイツ」って誰なのか訊いてみろよ。
トリステル  (なぜかラーケンの発言をスルーして)うーん、額に傷のある男の子は今どうしてます?
GM  彼も年齢的には家事を担う立場のはずなんだけど、忙しくしてる他の年長者たちを尻目に、ソファとかで横になってウトウトしたりしてる。まるで手伝う気がないみたいだ。
ジョン  それは……ますます他の子からは疎まれるだろうな。
GM  近くを通るときに「ああ忙しい!」などと聞こえよがしに言う子がいたもんで、彼はチッと舌打ちしてどこかへ行っちゃう。険悪な空気になってるね。
トリステル  男の子が消えたんなら、その雑談してる女の子たちに訊いてみます。「アイツって彼のこと?」
GM  女の子たちは顔を見合わせながら、困ったような顔をしてゴニョゴニョと誤魔化しながら、どこかへいくよ。
ジョン  (女の子の口調で)「いけない、忘れてたわ! シーツを干しておかなくちゃ」
GM  うん。そうやってはぐらかされてしまうね。
トリステル  あらら、逃げられちゃった。向こうのほうが上手でしたよ。
ラーケン  上手って……(苦笑)。ガキに適当にあしらわれるなよ(笑)。
トリステル  どうしましょう……。
ラーケン  だから、隣の女の子に話を訊けってば!
トリステル  仕方ない、そうしましょうか。……(ジョンの方を向いて)でも、何を話そうかしらん。
ジョン  オレに話しかけるな。オレは今、果報を寝て待っているのだ(笑)。
ラーケン  おめぇら、どっちもひでぇよ(笑)。おそらくは核心に迫っているというのに……まさに隔靴掻痒というヤツだな(苦笑)。
トリステル  仕方がないので、何気なく「好きな男の子とか、いないの?」と訊いてみます。
GM  突然すぎるだろ、その質問は(苦笑)。けどまぁ、針仕事の少女は照れたように微笑んで、少し頬が染まったように見えるよ。
トリステル  それから、えーと、えーと……うーん困ったなぁ。わたし、何か小物とか縫えませんかね?
GM  ん、どういう意味?
トリステル  その、まぁ、この女の子に何か作ってあげようかなぁ、と。そうすれば、二人の距離が縮まるんじゃないかなぁー、と。

 ラーケンが、寂しそうな針仕事の少女をマークしたがっているようだが、どうもトリステルが的を射ない動きをするもんだから、はかどらない。
 好きな異性を訊いておきながら、リアクションしたらスルー。そして、挙句が「縫った物をプレゼント」だもんなぁ(苦笑)。あまりに支離滅裂すぎるぞ、トリステル。

GM  んー、それはつまり、トリステルはレズビアンってこと?
トリステル  (素に戻って)ぶっ、なんでそうなるんですかぁ!
ジョン  いきなりプレゼントを縫うとか言い出すトリステルにも驚かされるが、それをレズに飛躍させるアンタ(GM)も大概やぞ(笑)。
ラーケン  これぞ、いわゆる「たちひろし」と「ねこひろし」(にやにや)。
ジョン  おおー、凄げぇ。ダブルひろしで「タチ」と「ネコ」! 今まで気づかんかったわ(爆笑)。
GM  うわー、舘が攻めて猫が受けるのかぁー。今、バッチリ絵が浮かんでもたがな(半泣)。

 何だかよく分からないうちに、エルフ娘の突撃取材はあえなく失敗。トリステルは、なぜか針仕事の少女にそれ以上は食い下がろうとしない。
 名前すら訊かないなんて、よほど「レズ疑惑」で動揺したのかぁ!?

(2)便利アイテム・カルロス

 ジョンとトリステルは、建物の周りで罠を仕掛けられそうな場所を見て回ってきたラーケンと合流。「事件」や「額に傷のある少年」についてもっと詳しい情報を訊き出すべく、再びカルロスのところへ向かった。

ラーケン  よう、爺さん。忙しいところ悪いが、もう少し話を聞かせてくれや。
カルロス(GM)  ああ、ワシに分かることなら何なりと話そう。

 何だか「困ったときのカルロス頼み」みたいになってきた感は否めない(笑)。ちょっと便利に使われすぎかもしれないけど、序盤のGMのミスのせいで、すでに時間を随分ロスしている。今しばらくカルロスの「濫用」を黙認して、シナリオを軌道に乗せるのが先決だろう。
 ただし、プレイヤーたちにもミスが目立ち始めているから、こういう助け舟はコレが最後という心づもりだ。

トリステル  昨日、ラーケンさんがカルロスさんに技を教わっているとき、刀傷の少年がいたでしょう。あの子がここへ来て、どれくらいですか?
カルロス(GM)  ダニエルのことか? そうだな、だいたい一ヵ月くらい前じゃないかのう。
トリステル  ふむふむ、ダニエル君っていうんですね。
ラーケン  (突然)ワックス塗る! ワックス取る!
ジョン  (かぶせて)アーップ、ダーウン、アーップ、ダーウン……。
GM  (さらにかぶせて)ノーノー。ミヤジじゃない、ミヤギだ。
トリステル  ……齢がバレますよ。

 ラーケン役のプレイヤーがあまりに懐かしいボケをかましたのでGMまで思わずノってしまったが、「ダニエル」は「ベスト・キッド」から借用したわけじゃない。彼(と針仕事の少女)の元ネタは、ちゃんと別にあるのだよ。

ラーケン  もとい。あのガキは一体どういうヤツなんだ?
カルロス(GM)  スラム育ちで、危険な事も経験してきたらしい。あんな態度じゃから、どうも年長の子たちとはソリが合わんようじゃ。
ジョン  ん? てことは、仲が良いヤツもいるのか。
カルロス(GM)  小さな子たちは先入観を持たずに接しているせいか、ダニエルを嫌ってはおらん。
トリステル  意外と優しい少年なのかもしれませんね。
カルロス(GM)  おそらく根っからの悪党というわけじゃなかろう。これは「悪党」に混じって生きてきたワシの勘だがな。
ラーケン  ああ分かってるさカルロス、アンタは素人じゃない(笑)。
トリステル  でも現実として、彼が来たころから物騒なことが続いているんですよね?
カルロス(GM)  うむ。ダニエルは1ヵ月ほど前にソフィアさんが連れてきたんじゃが、その頃から、不審火やガラスが割られるといった事件が続いておるな。
ジョン  時間軸で見ると、どうしてもダニエル少年が疑われるってわけか。
ラーケン  他に何か思い当たることはねぇか。どんなことでも構わねぇから。
カルロス(GM)  そうじゃなぁ。もしかしたら、スラム時代に関わりがあった者などは、急に恵まれた環境に移った彼を妬んでいるかもな。
ラーケン  そうか、その線もありえるな。
カルロス(GM)  ワシにはどうしてもダニエルの仕業だとは思えんのじゃよ。なにせ、あのナタリーが彼には心を開いておるからのぅ。
ラーケン  ふむ、「ナタリー」ね(頭の中にメモメモ)。その子はどんな子だい、爺さん。
カルロス(GM)  可愛らしい娘じゃよ。12歳くらいだったか。

 さぁ、重要人物その2の説明を始めようか……とGMが意気込んだのも束の間、なんと、突然ここで話があらぬ方向へと転がり始める。

ラーケン  ふむ、まぁこんなところだろう。よぅし。あとは夜まで体を休めておくぜ。
GM  (え?)
ラーケン  これを機に、俺がダニエルを一人前のトレジャーハンターに鍛えてやる、という筋書きはどうよ(笑)。
ジョン  自分がまだ駆け出しのくせして、一丁前に弟子を取る気か?(笑)
GM  (ちょ、ちょっと待たんかい)えーと、みんな、もう夜まで何もしないの?
ラーケン  俺は、ガキに混じって情報集めたりできるガラじゃねぇからなぁ。
ジョン  今晩は徹夜になる可能性が高いしな。

 ナタリーという少女の存在と彼女の年齢、そして彼女がダニエルに心を開いているという情報を得ただけで、なぜか満足してしまった3人。ナタリーが誰なのか、なぜ彼女がダニエルに心を開いていることが特筆すべき状態なのか――そういったことを何ひとつ掘り下げようとしない。
 ダニエルを妬んでいるスラム街の住人についても、ほとんど完全にスルーしちゃってる(もっともコレはシナリオ上のスケープゴートというか、事件解決には影響しない無駄足イベントだから、結果オーライではあるんだけど)。
 一体全体、この日のプレイヤーたちはどうしたというのだろう。まるで集中力がなくて、失点を重ねている。GMとしては、さすがにもうこれ以上の助け舟は出さないからね。覚悟したまい。

(3)女子部屋の寝物語

 結局、カルロスからはそれ以上の情報を引き出せず(というより、引き出そうとせず)。
 やがて夜は更け、小さい子たちから順にベッドに向かう時間帯になった。もちろん、PCたちがこの日もしっかり晩御飯をご馳走になったのは言うまでもない(笑)。

トリステル  ではわたしは、今晩は年長組の女の子たちの寝室で一緒に眠らせてもらいますね。
GM  やっぱり、レz……。
トリステル  ち・が・い・ま・す!(怒)
ラーケン  俺は罠(鳴子)を仕掛けて回る。で、いざというときに急行できるよう、屋外の物陰などに【潜伏】しておく。
GM  了解。で、ジョンはどうする?
ジョン  んーーー、とりあえず寝るか(笑)。
ラーケン  (笑顔で指をボキボキ鳴らす)
ジョン  うそうそ(笑)。オレは室内で不寝番だ。子ども部屋は2階なんだよな? 階段下にハリポタの寝室みたいな小部屋、ないかな?
GM  まぁ、物置みたいな収納スペースくらいなら、あるだろう。
ジョン  じゃあ、そこに潜んでいよう。階段を使うヤツがいたら分かるだろう。

 かくして完全に別行動を取り始めた3人。GM泣かせと言えば確かにそうなんだけど、こういう事態が生じるのもTRPGの面白さのひとつだ。
 こういう場合、それぞれの状況を時間軸どおりに処理していくのは難しいし、流れがブツ切りになってややこしい。GMの判断のもとで、便宜上ひとつずつ順番に処理していった方が、混乱は起きにくい。

GM  おっけー。まずラーケンから行こう。どんな罠にするの?
ラーケン  トリガーストリングに触れると音が鳴る。いわゆる「鳴子」だな。
GM  じゃあ「D3+1」箇所に、罠を仕掛けることができたということで。
ラーケン  おっと、出目1。てことは2箇所だけか。【罠操作】のロール値は……(ころころ)14と17だ。
ジョン  でかいな(驚)。
ラーケン  ふっ、素人には看破できまいよ。
GM  その近辺で【潜伏】するんだよね? そっちの分もロール値をちょうだい。
ラーケン  15。まずまずだな。
GM  どっちの罠の傍にする? ロール値14か、それとも17か。
ラーケン  そうだな、17の罠の近くに潜んでいようか。

 ラーケンは、「罠を仕掛けて潜伏する」というアクションをそつなくこなした。
 このロール値が相手では、この後で登場予定の「彼」はまったく太刀打ちできないに違いない。

GM  お次は、トリステルだ。今晩はあてがわれた部屋じゃなく、女の子たちの寝室で雑魚寝するんだよね。
トリステル  そうです。なるべく齢の近い子たちの部屋が良いです。
GM  そういうことなら、年長組の部屋だね。就寝時刻は過ぎたけど、まだまだ女の子たちはおしゃべりに夢中だよ。
ジョン  (女の子の口調で)「やっぱり○○が一番カッコイイよ」「えー趣味悪い。わたしは××の方がタイプね」
GM  まぁ、そんな感じやね(笑)。で、誰かが「ダニエルってどう?」と言い出す。すると別の誰かが「ないない。あんな性格の悪いやつ」などと答える。
トリステル  すかさず「ダニエルってどの子?」と促します。
GM  「嫌なヤツよ、最近じゃ昼間から寝てばっかで働かないしぃ」「つか、なんで院長先生がアイツ庇うのか、謎だよねー」「むしろ超怖いんだけど、あの傷跡ー。ちょーヤバくない?」
トリステル  うわー、現代っ子が混じってるー(笑)。
ジョン  (素に戻って)俺は、彼女たちの日本語の方がよっぽど怖ぇえわ(苦笑)。

 ごめん、調子に乗りすぎた。てか、若い少女をナチュラルにロールプレイするなんて、ボクには無理っす(泣笑)。

トリステル  「けど、ダニエル君にだって良いところがあるでしょ?」と訊いてみましょう。
ジョン  (女の子の口調で)「ねぇ、お姉さん。どうしてダニエルのことを訊きたがるのぉ?」
トリステル  えーい、外野、うるさい!(苦笑)。
GM  話を続けるぞー。女の子たちは「良いところなんてないよ、ダニエルに」と口々に即答するよ。で、「そういえば、ナタリーなら知ってるんじゃない? なんか仲良いみたいだしー」と冷やかし始める。
ラーケン  ダニエルとナタリー、やはり繋がってきたか。
GM  茶化す女の子たちの視線の先では、昼間に針仕事をしていた少女が真っ赤になって下を向いてるね。
ジョン  おお、この子がナタリーだったのか!
ジョン以外の全員  えー、気づくの遅っ!
ジョン  いやもう全然ノーマークだった。てっきり単なるエキストラだとばかり(笑)。
ラーケン  なんて思わせぶりなエキストラだよ(苦笑)。

 ここから、3人は大脱線。
 「オレ(ジョン)の髭はドキッとするようなホモヒゲだぞ」「お前が髭キャラをプレイするのは珍しいよな」などと、どうでも良いような話で盛り上がる(笑)。
 そして情報収集はあまり進まない、と(泣笑)。

第四章

(1)ラーケンとダニエル

 子ども部屋のシーンをこれ以上続けても時間の無駄だと判断したGMは、仕方がないので場面を変えることにする。

GM  そんなこんなで女の子たちがワイワイやってると、ソフィアさんがやってくる。「こらこら、みんな早く寝なさい。もう、トリステルさんまで一緒になっちゃって!」としかめ面だよ。
トリステル  あーあ、怒られちゃった。
ジョン  (女の子の口調で)「ふふん、お姉ちゃんも、まだまだ子どもね」
トリステル  何か腹立つー!
ジョン  ていうか、今日はオレ、他人(NPC)のロールプレイばっかやってるな(笑)。

 そう思うならちゃんと動けよ、頼むから(笑)。

GM  では、さらに時間が進み、すっかり施療院が寝静まった頃。ジョン、無意識で【聞き耳】をどうぞ。
ジョン  お、何だ、いきなり。えーと……(ころころ)ロール値は9だ。やっぱ「スキルなし+無意識」だとキツイなぁ。
GM  (ころころ)では特に何も気づかなかった、と。
ジョン  むぅ、いったい何が起こってるんだろう?
GM  施療院の外に場面を移すね。(ころころ、ころころ)うーん、やっぱり引っ掛かるよなぁ。
ラーケン  鳴子が鳴るんだな?(←嬉しそう)
GM  その通り。少し離れた所からカラコロという音が聞こえる。残念ながら、見張っていた方とは違う罠みたいだね。
ラーケン  音のするほうへ急ぐ。
GM  おっけー。すると、そこにはダニエル君がいるよ。糸に絡まってパニクってるみたいだ。
ジョン  うげ! オレ様、もしかしてガキに出し抜かれたのかぁ?!(苦笑)

 その「もしかして」だよ(笑)。
 残念ながらジョンは、階段を降りてくるダニエルの足音に気づけなかったのだ。

ラーケン  とりあえず、近付いてからナイフで切る。
GM  ふむふむ、(喉をかき切る仕草をして)ナイフで切る、と(笑)。
ラーケン  糸だよ、糸(笑)。逃げないようにしっかり腕を掴んでおくぜ。

 ここから、ラーケンの渾身の説得が始まる。

ラーケン  さて。いったい何をしてるんだ、こんな夜中に、こんな所で。
ダニエル(GM)  アンタにゃ関係ないだろ。
ラーケン  関係ねぇとは限らんぜ。今いろいろ調べてるんでね。俺ぁ、この施療院に世話になってるからよ。
ダニエル(GM)  ふ、いい歳した大人なのにか?
ラーケン  く……こ、このガキ、言ってはならんことをぉぉぉっ!(笑)
ダニエル(GM)  アンタ、このことを院長にチクるんだろ。ま、こんなガキだらけの所はそろそろオサラバするつもりだったし、ちょうど良いや。
ラーケン  ひねたヤツだな。そんな嫌なら、当面の路銀くらいならくれてやるから、とっとと出て行けよ。
ジョン  おお! ラーケンが残り少ない金を施そうとしてるぞ(笑)。
ダニエル(GM)  金なんか要らないよ。ヤサに戻ればそれなりにやって行けるから。
ラーケン  ヤサってのは、スラム街のことか? やめとけよ、お前さんは裏社会で生きていくには向いてねぇと思うがな。
ダニエル(GM)  ここにいるよりはマシさ。偏見にさらされて、息が詰まって仕方ない。
ラーケン  傷跡にみんなビビっちまうだけだ。(キャラクター・シートを指差しながら)俺だってよ、この通りだから偏見とは無縁じゃねぇよ。

 ラーケンの顔にも派手な傷跡がある。それを利用して、「彼我の類似点をアプローチの突破口にしよう」という狙いらしい。相手が「孤立している少年」ということを考慮すると、これはベストに近いやり方だと思う。
 感嘆したGMは、ここでダニエルの態度を一気に軟化させることにする。

ダニエル(GM)  けど、おれはスラム上がりだから。何かあると、すぐ疑われるしよ。
ラーケン  少なくともカルロス爺さんは、お前を疑っちゃいないぜ。ソフィアさんだって、子どもたちの中に犯人はいないと信じてる。
ダニエル(GM)  アンタはどうだ? アンタはおれを疑ってないのかい?
ラーケン  お前さんを殊更に疑う理由はねぇな。そもそも、自分が疑われると分かりきってる状況で放火するなんざ、よっぽどの馬鹿だ。
ダニエル(GM)  ……実はさ、最初の不審火の後、おれが真っ先に疑われたんだ。ムカついたから、自力で犯人を捕まえようと毎晩見張ってるんだよ。
ラーケン  ち、素人が効率の悪いことを。だから昼間はウトウトしてやがったんだな、このヤロウ。
ダニエル(GM)  他に良い手を思いつかなかったんだよ。
ラーケン  だったら、明日から俺と一緒に見張らねぇか。俺一人だと見張れるポイントが限られるからよ。
ダニエル(GM)  この罠の張り方を教えてくれるかい?
ラーケン  教えてやっても構わんが、絶対に悪用するんじゃねぇぞ。
ダニエル(GM)  オーケー、じゃあアンタの作戦に乗った!

 このあたり、やはり巧い、と思う。
 相手にやらせたいタスクを与えるとき、命じるのではなく提案する。あくまでも相手が自分で決めたという形に持っていく。そうすることで相手には自覚が生じる。さらに、困っているというニュアンスを漂わせることで、厄介者扱いだった少年に「自分でも役に立てる」という期待感を持たせ、それをモチベーションへと変えさせる。
 ラーケン役のプレイヤーは、実生活でも子どもたちと接することが多い。そういった経験値が、こういう「説得する能力」に出てくるのかもしれない。

(2)月夜の少女

 ラーケンは、「どうせなら」と罠による狩猟もダニエルに教えるという。施療院の食糧の足しになるような働きをダニエルにさせれば、子どもたちの彼を見る目も変わるだろうという配慮からだ。
 また、ダニエルが余計な詮索を受けないよう、ラーケンがダニエルを狩猟に連れ出していたという体裁を取り繕い、夜明けを待ってからふたり一緒に施療院へ戻ることになった。
 序盤は寝ぼけていたラーケンだが、ようやくエンジンがかかり始めたのか、急に渋い働きをするようになってきた。

ラーケン  まぁ、みっちりいろいろなことを教えてやるさ。
ジョン  ついに、ラーケンがミヤジさんになったぞ(笑)。
ラーケン  ノーノー、「ミヤギ」だ(笑)。
トリステル  速攻で弟子に追い越されたりして(ぼそり)。
ラーケン  やなこと言うなよ、洒落になってねぇから。何しろ俺のIQは4だからな(苦笑)。
ジョン  ラーケンの何が頭悪いかって、IQの数値よりも何よりも、トレジャーハンターを大真面目にやってることだろ(笑)。
ラーケン  いやいや、IQ7もあるくせに魔術師くずれの放蕩画家やってるジョンも、ある意味、頭悪いぜ(笑)。

 君たち、悲しくなるから無闇に傷つけ合うのはやめたまい(苦笑)。

GM  ラーケンたちは朝を待つ、と。それでは、再びトリステルだ。午前3時とか4時とか、それくらいの時間帯と思ってちょ。
トリステル  横になってるからウトウトしちゃうかもしれないけど、眠っちゃわないように頑張ってます(笑)。
GM  落ちそうになりながら、睡魔と闘っているんだね(笑)。じゃあ【聞き耳】を無意識で。
トリステル  はいはい、(ころころ)お、でかいですよ、14。
GM  眠りそうになっていたトリステルは、寝室のドアが静かにパタンと閉まる音に気がついて、ハッとなる。
トリステル  誰かが入ってきたのかな?
GM  いや、その気配はないね。むしろ、出て行ったような気がする。
トリステル  よし。気づかれないように注意しながら、静かに後を尾けます。子どもたちを起こしてしまわないよう、そーっと。
GM  だったら【忍び足】をどうぞ。
トリステル  う、スキルないや。(ころころ)えーと、10です。
GM  それなら大丈夫だろう。君はそろりそろりとドアに向かい、そーっと開ける。すると廊下の端の方で、ちょうど階段を降りようとしている小柄な人影が見えるね。月明かりくらいしかないので、辺りは暗い。
トリステル  誰だろう、引き続き追いかけますよ。
GM  では階段下のジョン。【聞き耳】をどうぞ。
ジョン  (いかにも寒そうに)うう、ぶるぶる。いかん、冷え込んできやがった。
ラーケン  出番がないぶん、迫真のロールプレイやな(笑)。
GM  出番が来るかどうかはダイス次第だよ。はやく転がしてくれ。無意識のペナルティ(−2)を忘れずに。
ジョン  あかん、8。
GM  (ころころ)じゃあ、ジョンは何も気づかない。
ジョン  しょぼーん。

 小柄な人影のあとを追うトリステルは、廊下の突き当たりから階段の下を覗き見る。そして、階段を降りた人影がUの字を描くような軌道で、ゆっくりと階段脇の廊下へと進んでいくのを目撃する。

GM  その瞬間、窓から差す月の光で、顔がチラリと見える。ナタリーちゃんだよ。手には白っぽい布を丸めたようなものを抱えている。
トリステル  その1階の廊下の先には、何があります?
GM  そうだなぁ、何だかんだとあるんだろうけど、特徴的なので言えば、ソフィアさんの寝室とかがあるね。
トリステル  なるほどー。階段をそっと降りて、さらに追います。
GM  ならば、ジョンはもう一度【聞き耳】。トリステルは【忍び足】ね。
ジョン  PC同士の対決か。(ころころ)うわ、ひでぇ、6だ(苦笑)。
トリステル  おっと、わたしも6(笑)。
GM  (ころころ……げ、ピンゾロ!)えーと、ロール値が同値なら、ノーカウントだ。二人とも、もう一度振り直して。

 この場で行なわれている判定ロールは、実は「トリステルの足音をジョンが聞きつけるかどうか」だけじゃない。ジョンが聞きうる「音」は、もうひとつある。
 階段下の物置に潜むジョンは【聞き耳】。その頭上の階段を降りていくトリステルは【忍び足】。そして階段脇を通り過ぎようとしているナタリーもまた【忍び足】。この3つのロール値を比較しなくちゃならないので、少しややこしい。
 ジョンとトリステルのロール値はともに「6」だったけれど、GMが振ったナタリーの判定ロールはなんと「ピンゾロ」。この時点で、ナタリーの足音はジョンに聞かれたことになる。ロール値が同値だったジョンとトリステルの優劣比較だけが、ノーカウント扱い(再ロール)ということになるわけだ。

ジョン  よっしゃー、今度こそ気づけオレ! 9!
トリステル  ……あ、11。勝っちゃった(苦笑)。
ジョン  うをー! すぐ頭上を通っていくヤツらに気づけぬとは!
GM  確かに頭上の音は聞こえなかったけど、君が潜んでいる物置の戸のすぐ外側から足音が聞こえるよ。
ジョン  良かった! じゃあ足音の主を確かめるべく、そっと物置の戸を開くぜ。
GM  うーん、戸の隙間からは足音の主は見えない。けど、ジョンの視線の少し先に、拙い足取りで【忍び足】をしているトリステルがいるぞ(笑)。
トリステル  どうも(笑)。
ジョン  やぁ(笑)。

(3)濡れた秘密(笑)

 アイコンタクト(?)を交わしたジョンとトリステルは、合流してナタリーの後を追い続ける。

ジョン  トリステルに、口の形だけで「誰だ?」と訊こう。
トリステル  「ナタリー」と答えます。もちろん口の形だけで。

 「ジョン役のプレイヤー」はGMとトリステルのやりとりを聞いていたから、相手がナタリーだと知ってる。しかし、「ジョン」は足音の主がナタリーだとは知らない(結局、相手の顔を見ていないからね)。こういうときは「知らないという前提で、ロールプレイする」というのがTRPGのお約束だ。

ジョン  気づかれないように、十分に距離を取って後を付けよう。
GM  ナタリーは角を曲がって廊下を進む。その先はソフィアさんの部屋だ。君たちが曲がり角からチラリと覗くと、白っぽい布を胸に抱いたナタリーが静かにドアをノックしているのが見えるよ。
トリステル  布の中身はなんでしょうね…。
GM  しばらくするとドアが開いて、燭台を手にしたソフィアさんが現れる。彼女はナタリーを招きいれて、ドアを閉めたよ。
ラーケン  この施療院はソフィアさんの欲望渦巻く百合の園だった、とかいうオチじゃねぇだろうな(笑)。
ジョン  今こそ「クリアボイアンス」! いやー、エロいなぁオレ(笑)。
トリステル  下品な冗談はさておき、それ、良い手かも。ただ、呪文を唱えるときに声を出したらバレますよ。
GM  チャントなしなら集中時間×2、出目4以下は自動的失敗だよ。
トリステル  杖は持ってるんですか?
ジョン  何を隠そう、フル装備だ。

 夜中に、フル装備で物置に潜む男……ちょっとした変態だな(笑)。

GM  では呪文が発動したかどうか、判定ロールをどうぞ。
ジョン  てぃ!(ころころ)……5! あっぶね、ギリギリ(苦笑)。
GM  では、壁越しにソフィアさんの部屋を透視だ。えー、泣きそうな表情のナタリー。優しく彼女の肩を抱くソフィア。
ジョン  声は聞こえないんだよな?
GM  (当たり前じゃないか)声は聞こえないけど、ソフィアがナタリーを慰めているような雰囲気だ。濡れたシーツが二人の間に広げられているね。
トリステル  つまり、おねしょ?
ジョン  こ、これは……激しく期待外れだな、いろんな意味で(苦笑)。
GM  ソフィアはナタリーの濡れた寝間着を着替えさせて、その間に新しいシーツを引っ張り出してくる。
ラーケン  お、生着替えじゃねぇか、良かったなジョン。(←ちっとも羨ましくなさそうに)
ジョン  つるぺたに興味はないわい。ソフィアさんならまだしも。
GM  ナタリーが落ち着いたら、ソフィアさんが「さぁさぁ、大丈夫だから部屋へ戻りなさい」という感じでナタリーをドアへと誘導する。
ジョン  おっと、トリステル、下がれ、部屋から出てくる、早く早く! ……と口パク(笑)。
トリステル  ジョンさんが隠れてた階段下の物置でやり過ごしましょう。
GM  では、物置で隠れていると、ナタリーが目の前の廊下を通り過ぎて、頭上の階段を昇っていく気配があった。
トリステル  さて。ジョンさん、わたしにも部屋の中で何があったか説明してくださいよ。
ジョン  おお、そうだった。部屋の中では「かくかくしかじか」というわけだ。

 先述した「知らないという前提で、ロールプレイする」というお約束。これはプレイヤー側に求められる資質なんだけど、同様にGM側の「要領」もTRPGでは重要だ。
 特定のPCだけに知らせるべきシーンを処理するとき、その場にいない他のPC(≒プレイヤー)を一時退席させることがある。その場にいない者が状況を把握するのはオカシイ、という至極もっともな理屈だ。しかし、そういうケースすべてにおいて他のプレイヤーを逐一退席させるとなると、やはり問題があるだろう。何でもかんでもリアルに処理すれば良いってもんじゃない。
 例えば、このシーン。部屋を透視できるのはジョンだけだが、すぐに3人で情報を共有することは間違いないのだから、わざわざラーケンやトリステルを退席させる必要はない。いちいちそんなことをしてたんじゃ、セッションが冗長になる。いざ情報を共有しようという段になって、「かくかくしかじか」で済むはずのところをジョンが他のPCたちにもう一度伝え直さなくちゃならないなんて、時間の無駄だしナンセンスだ。

トリステル  うーん、確か12歳くらいでしたよね、ナタリーちゃん。オネショ癖が治らない、とか?
ジョン  さあなぁ。まぁ、いわゆる無駄足イベントってやつだったよ(苦笑)。
ラーケン  いや、分からんぜ。何かの伏線かも知れねぇぞ。
ジョン  なるほどな……って、ガキのオネショがかぁ?(笑)

 いやいや、さすがラーケン。鋭い、というか、抜かりがない。GMのヒネクレ具合をよくご存知ですな(笑)。

GM  さてさて。その後は夜明けまで特に何事もなく時間が過ぎる。で、朝になると、ダニエルを連れてラーケンが戻ってくるよ。
ラーケン  おう、どうだ、そっちの首尾は?
ジョン  うん、まぁ微妙だな。進展があったような、なかったような(笑)。
トリステル  収獲が「ナタリーちゃんのオネショ」だけですからね(苦笑)。

第五章

(1)ナタリーのおつかい

 徹夜明けの冒険者たちは、それぞれが得た情報を「かくかくしかじか」の呪文(笑)で共有したのち、眠い目をこすりながら今後の方針について話し合うことに。
 とはいえ、まだ全容を推量するには情報が少ない。仕方がないので、もう少し様子を見てみようという結論に達し、翌晩も同じようなフォーメーションで望むことにした。まぁ、つまり、いわゆる「イベント待ち」というやつである(苦笑)。

ジョン  不審火が建物の内と外で起こってるってのが、謎なんだよなー。
ラーケン  そこなんだよ。「ダニエルに怨恨を持つチンピラ」説を採ると、建物内部への進入時のハードルが高すぎる。
トリステル  昼間はゆったり英気を養って、夜になったら昨夜と同じ布陣で臨みましょう。
ラーケン  違う点と言えば、俺に相棒(ダニエル)が付いたことくらいか。
ジョン  無策と言えば無策だが、現時点では、まぁ妥当なトコだろ。
GM  では、君たちが夜に向けて体を休めようとしていると、ナタリーがソフィアさんに呼ばれるよ。
ジョン  オネショのことで叱られるんだぞ、きっと(笑)。
GM  違うよ(苦笑)。「ナタリー、ちょっと云々を頼まれて頂戴」とか言われている。お遣いを頼まれたようだね。
ラーケン  いかん、ナタリーを一人にするな。行け、トリステル!
トリステル  はいはいー。ソフィアさんに付き添いを進言しよう。
ソフィア(GM)  いいえ、最近はダニエルに一緒に行ってもらってますので。お願いするわ、ダニエル。
ラーケン  ダニエルの反応は?
GM  ふん、と鼻を鳴らすけれど、拒否はしない。
ラーケン  うーむ、このまま二人を行かせるのは、どうもうまくない気がする。ふたりの後を尾けよう。
GM  ジョンとトリステルはどうする?
トリステル  ラーケンさんに付いていきます。
ジョン  オレは院に残っていよう。ちょっとやってみたいことを思いついた。

 ジョンが「やってみたいこと」が何なのか分からないけれど、まずはダニエルとナタリーのお遣いイベントを処理することに。
 PCたちがあまりにも施療院から離れようとしないものだから、GMは強引に舞台を市街へと引っ張り出そうと試みた。シナリオで定めた時間軸を無視する形になるが、ちょっとアレンジして、あるイベントを発生させようというのだ。しかし、この決断が後にGMの首を絞めることになる……。

GM  では、ラーケンとトリステルは【尾行】の判定ロールだ。
ラーケン  何だと?
GM  ダニエルたちに気づかれないようにしたいんでしょ?
ラーケン  むむむ、仕方あるまい。【尾行】はIQ系だったよな……IQ4の俺としては青ざめるな(苦笑)。
トリステル  わたしは、「【尾行】しているラーケンさん」の後を付いていきます。
GM  なるほど、【尾行】に気づかれるリスクを減らす作戦やね。

 つまり、ダニエルとナタリーに付かず離れずで尾行をするのはラーケンのみで、トリステルはさらに後方からラーケンだけを追う。こうすれば、トリステルがダニエルたちから気づかれる心配はまずない、というわけ。もし、ラーケンとトリステルがふたりでコソコソしていたら、どちから一方でも判定ロールに失敗すれば尾行に気づかれてしまう。そういう事態を避けようという思惑だ。
 ただ、この作戦を徹底するなら、ラーケンよりトリステルが前に出たほうが有利だ(トリステルの方が、【尾行】に関する能力値であるIQは高い)。それをあえてしないのは、いわゆる「キャラプレイ」というやつだろう。トリステルはあまり前面に出て動くタイプではない。

ラーケン  俺だけが【尾行】の判定ロールをすりゃあ良いんだな。うりゃー!(ころころ)……9!
GM  (ころころ、ころころ……うわ、ダニエルとナタリー、どっちも出目悪っ!)少なくとも、気づかれているようには見えないね。
ラーケン  ふう。ま、しょせんは素人よ。
ジョン  そう言うわりには必死にダイスを振ってたじゃないか、ラーケン(笑)。
GM  ダニエルとナタリーは順調にお遣いをこなしてるよ。といっても、ダニエルは付いていってるだけだけど。
トリステル  ボディガードみたいな感じですか?
GM  うーん。というかね、ラーケンには見えるんだけど、ナタリーはお店の人にジェスチャーだけで意図を伝えてるようだ。
ラーケン  ん? この子、言葉を話せないのか?
ジョン  全然、気が付かなかったな。
GM  ナタリーは今まで一度も喋ってないよ。彼女と接触を持ったトリステルが、ろくに話そうとしないんだもん。
ラーケン  まぁ確かに、傍で見てても、トリステルのアプローチは甘かったわな。俺は何度かプッシュしたんだがな。
トリステル  けど、ナタリーちゃん、わたしの言葉にリアクションしてましたよね。
ラーケン  つまり文化的に言葉を知らないわけじゃないし、耳も聞こえる。ただ声だけが出ないってだけだろう。
GM  そゆこと。そういうハンデを抱えてるので、念のためにダニエルが付き添っているみたいだ。

 序盤の進行がグダグダだったので、ナタリーの特異性が何ひとつPCに対して開示できていなかった。かなり強引な見せ方だけれど、ようやくこれで「ナタリーは言葉を話せない」ということが判明したので、特殊な背景を持つ人物としてもう少しPCたちからの注目が集まるだろう。

(2)行商人ジヘイ

GM  お遣いをこなして院に戻る途中、ある露天商の前でナタリーが足を止める。そして、彼女は布のようなものを手に取るんだけど、その瞬間、露天商が何やら怒鳴り散らしたよ。
ラーケン  なんだなんだ、トラブル発生か。
GM  彼女は怯えたように身を固くしているね。それを見たダニエルが、露天商の襟首を掴んで吊るし上げる。相手は小さな子どものようだ。
トリステル  これはマズイですね。
GM  露天商が営業してるくらいだから、人通りは多い。たちまちざわざわしはじめて、「おい、あいつら、例の孤児院の……」というような声もチラホラ。
ラーケン  いかん。飛んでいって、ダニエルと露天商の子どもを引き離すぜ。
GM  君に羽交締めにされながらも、ダニエルは激昂している。「ぶっ殺してやる!」とか何とか。ナタリーは泣きながら、ダニエルを止めているね。
トリステル  わたしもそろそろ駆けつけても良い頃ですよね。
ラーケン  そうだ、トリステル。ダニエルとナタリーを施療院へ連れて帰ってくれねぇか?
トリステル  了解です。さぁさぁ、ふたりとも、この場はラーケンさんに任せて。
ラーケン  露天商はどんな感じだ。
トリステル  小さい子なんですよね。泣き出してるんじゃ……。
GM  いや、キレ出す(笑)。「おう、こらクソガキ、待たんかいワレ、逃げるんかいコラ、いてもうたるからかかってこんかい!」みたいな。
ジョン  こいつは……もしかして……。
ラーケン  耳が少し尖ってるんだな?
GM  いかにも。
トリステル  ミゼット商人のジヘイさんですね。

 この怪しげな関西弁を操るミゼットの行商人・ジヘイは、以前やっていたキャンペーンシナリオで登場したNPCである。プレイヤーたちは彼のことをよく知っているのだが、PCたちにとっては初対面。いわゆる「知らないフリ」でプレイしてもらうことになる。

ジョン  まさか、こんなところで登場するとはなぁ。GM、ジヘイのことが相当気に入ってるな?
ラーケン  とりあえずなだめよう。「まぁまぁ、落ち着いて。ガキのやったことだ、勘弁してやってくれ」
ジヘイ(GM)  ワイは冷静じゃ。あのクソガキがいきなり掴みかかってきたんやど。こんな大勢の前でえらい騒ぎになって、今日はもう商売にならんがな。
ラーケン  だったら、どうだい。お詫びと言っちゃあ何だが、これから俺の奢りで飲みに行かねぇか。実は、あの子たちとは、ちょっとした知り合いでな。ひとつ穏便に頼みてぇんだ。
ジヘイ(GM)  まぁ、兄サンがそこまで腹割って話してくれるんなら、ご馳走になろやんけ。

 というわけで、お互いの自己紹介などをするかたわら、ラーケンはジヘイを白竜亭へと案内する。

GM  白竜亭の主人であるホワイトさんは、ジヘイを知ってるらしいね。「こりゃ毎度どうも」と見たことのない愛想の良い顔で寄ってくる。どうやら、ジヘイはいつもたくさんお金を落としてくれる上客らしい。
ラーケン  このお調子者め。その期待を裏切ってやる。「今日は俺の奢りなんだ、ご馳走してやってくれ」(笑)
GM  君の奢りと聞いた途端、払いの額が知れていると悟ったマスターの笑顔がひきつるね(笑)。
ラーケン  ふん、ざまぁみろ(笑)。で、ジヘイさんとやら。あの子たち、何をしたんだい?
ジヘイ(GM)  あの小娘がワイの売りモンに手ぇ出しよったんや。それを諌めたらあのボウズがいきなり掴みかかってきよったんや。ちょっとデカいからってナメくさりやがって、あのガキ。
ジョン  ミゼットに比べりゃ、大抵デカいわな(苦笑)。
ラーケン  女の子が、品物を盗もうとしたのかい?
ジヘイ(GM)  いや、盗むっちゅうこっちゃないやろけど……しかし、ワイの扱う品はどれも値打ちモンやからな、汚い手で触られたらかなんのや。
ラーケン  まぁ、あの子たちにも悪気があったわけじゃない、勘弁してやってくれよ。
ジヘイ(GM)  お、おうよ。ワイもきつう言いすぎたかもしれんしな。こうして兄サンに奢ってもろとるし、水に流したるわ。
ラーケン  話が分かる相手だと助かるぜ。
ジヘイ(GM)  ところで兄サン。見たところ、腕に覚えがありそうやな。
ラーケン  ん、俺か? そうとも。俺ァ、トレジャーハンターさ。
ジョン&トリステル  ……(苦笑)。
ジヘイ(GM)  ほ、ほう。ト、トレジャーハンターか(苦笑)。
ラーケン  うむ、トレジャーハンターだ(苦笑)。

 恥ずかしいなら言うなよ、ラーケン。

ジヘイ(GM)  兄サンを見込んで頼みがあるんやが、聞いてくれへんか?
ラーケン  ん、何だい。トレジャーハントの腕が必要なら、いくらでも言ってくれ(笑)。
ジヘイ(GM)  よっしゃ。せやったら、ここからはワイの奢りや。マスター、個室は空いとるけ?

 ……というわけで、ジヘイがオーダーした個室へと通されたラーケン。ここから先の払いはジヘイが持つと言う。
 もちろん、それを聞いた白竜亭の主人ホワイトさんに、最高の笑顔が戻ったことは言うまでもない(笑)。

(3)変態さんが通る

ジヘイ(GM)  実はな、トレジャーハンターみたいな立派な商売(笑)やっとる兄サンに頼むには役不足なんやけどな、ジャイアント・スパイダーを退治してほしいんや。
ラーケン  ほうほう、ジャイアント・スパイダーねぇ。俺は知ってるのかな?
GM  【知識/モンスター】もしくは【知識/動物】でどうぞ。【知識/一般】や【知識/伝承】でも良いが、ロール値−2だよ。
ラーケン  【知識/伝承】がある。ロール値は(ころころ)……10だ。
GM  名前と概要を知ってるね。文字通りの巨大蜘蛛で、糸に絡まれると非常に危険だ。
ラーケン  そいつはどこにいるんだ?
ジヘイ(GM)  この町の地下に古代の遺跡が縦横に走っているのは知っとるやろ? どうやらそこへ逃げ込んだらしくてな。

 ジヘイの話を要約すると「魔術師ギルドの実験用に納入予定だったジャイアント・スパイダーを、ふとした弾みで逃がしてしまった」ということらしい。魔術師ギルドには方便を使って「搬送途中に死んだ」と報告していたのだが、地下に巣食っているジャイアント・スパイダーの目撃談があったため、内密に処理してくれる者を探しているというのだ。

ジヘイ(GM)  報酬は口止め料込みで、50GP。任意で人を雇っても構わんが、その場合はこの原資を好きなように分けてくれ。
ラーケン  了解した。退治の証拠は、蜘蛛の頭でもあればOKだな?
ジヘイ(GM)  そうやな。ただし、脚の一本くらいじゃアカンで。
ラーケン  仲間と相談しなければ安請合いはできねぇが、やってみよう。期限はいつまでだ?
ジヘイ(GM)  そりゃ、早いに越したことはない。2〜3日中にやってもらえたら安心やな。
ラーケン  蜘蛛の巣はどこにあるんだい?
ジヘイ(GM)  知り合いのホームレスが、詳しい道順を知っとる。案内につけるから、迷うことなくたどり着けるはずや。
ラーケン  それは、ゲーム的に言えば、ダンジョンアタックが不要ってことか。
GM  ま、そういうことだね(笑)。

 ラーケンは、明日の昼に白竜亭のこの個室で再会する約束をして、ジヘイと分かれた。そのときまでにラーケンは仲間(つまりジョンとトリステル)を集めておき、ジヘイは案内役のホームレスを手配しておくという段取だ。

GM  さて、ではその頃の施療院。残ったジョンは、いったい何をするつもりなの?
ジョン  ふっふっふ。「クリアボイアンス」で、子どもたちの所持品検査だ。
ラーケン  闇の風紀委員として君臨する気だな(笑)。
トリステル  ひどい、プライバシーの侵害ですよー。
ジョン  せっかくの呪文の力だ。オレ様が真実を探るために汚れ役をやってやろうというワケさ。
GM  超越的な力を持つと、人はかくも傲慢になるのか。恐ろしいな(笑)。
トリステル  だから魔術師は忌避されたり、疎まれたりするんですね。
ラーケン  うっかり透視の呪文が使えるなんて公言したら、誰も信用してくれなくなるだろうな。

 そうやって考えると、いくら魔法が実在するファンタジー世界といえども、魔術師が魔術師であることを公表しているケースは意外と少ないのかもしれない。

GM  小さい子たちの大部屋、年長の男子部屋、年長の女子部屋とあるけど?
ジョン  念のため、全部見て回る。
GM  「クリアボイアンス」は100ラウンド(≒10分間)持続するのか。じゃあ、一部屋につき一回ずつ呪文を唱えれば足りるかな。
ジョン  (ころころ)……うん、難なく成功だ。ようし、まずは女子部屋からだ(にやにや)。
トリステル  ちょっとマジ最低なんですけど、この人(苦笑)。
ジョン  みんなが忙しくしている隙を見て、突撃ー!
GM  じゃあ、D6を振り合って、同じ出目が出たら、君が女子部屋を物色してる最中に誰かが入ってくるってことで。
ジョン  ちょ、まてwwwww
GM  問答無用!(ころころ)……4!
ジョン  くそ、えい!(ころころ)……ひぇぇぇ、5!
GM  ち、ニアミスか。
ジョン  「ち」じゃねーよ、「ち」じゃ(汗)。
GM  では、ジョンは年長の女の子たちの私物を透視する。そりゃもう、いろんな物が視えるだろうね。
ジョン  と、言うと?(わくわく)
GM  換えの下着とか。
ジョン  使いさしのリップクリームとか。
ラーケン  ムダ毛処理用のカミソリとか。
GM  ハブラシとか。
トリステル  ええい、ストップ! フォーカードが変態集団だと思われたら困るから、ここはリプレイではカットしてくださいよ!(怒)

 ごめん、リプレイにしちゃった(笑)。

第六章

(1)リリー・ザ・トリステル

 ジョンは、この後さらに「クリアボイアンス」を2回使って、年少の子ども部屋と年長の男子部屋も見て回るが、ダニエルのベッドで彼が護身用に所持していたと思しき大振りのダガーを発見(「念のため押収」という名目でジョンの懐にw)したくらいで、他にはこれといった収獲はなかった。

ジョン  結局、呪文3発分の骨折りで、ダガー1本か。いまいちだな。
GM  (短剣パクっといて無茶苦茶なこと言うなぁ)夕刻が近づいたころ、ラーケンが院に戻ってくるよ。
ラーケン  おう、今戻ったぜ……って、すっかりここの住人の風情だな、俺たち3人(笑)。
ジョン  ずっと居座って、晩メシ食っちゃあ泊まってくもんな(苦笑)。
GM  けどまぁ、ソフィアさんも君たちが不審火事件を調べてくれてることに感謝してる。むしろタダ働きをさせて申し訳ないと考えてるし、食事や部屋くらいは快く提供してくれるよ。
ラーケン  「タダ働き」と言えば、ひとつ金になりそうな仕事を見つけたんだが……と、蜘蛛退治の件を伝えよう。
トリステル  ちょうど良いですね。このまま収入ゼロというわけにもいかないですし。

 判定ロールの結果、トリステルは「ジャイアント・スパイダー」についてラーケンよりもかなり詳しく知っていた。その知識を元に、糸に絡められた場合に備えて油やたいまつを確保するなど、対ジャイアント・スパイダーのための準備をできるだけ整えていく3人。
 ちなみに、ジョンがジャイアント・スパイダーについて振った判定ロールは、なんとピンゾロ(苦笑)。

ラーケン  よし、こんなところだろ。あとは今晩の不寝番に備えて休んでいよう。
ジョン  そうしよう、呪文とピンゾロのおかげで、俺、けっこう疲れが溜まってるんだ(苦笑)。
トリステル  そういえば、連れ帰った後のダニエル君とナタリーちゃんの様子はどうですか。
GM  ダニエルは、自分のベッドに転がってイライラした様子。ナタリーは、ずっとすすり泣くような感じで塞ぎこんでる。
トリステル  じゃあ、ナタリーちゃんに付いててあげよう。気を紛らわすために【歌唱】でもやってみようかな。
GM  とてもじゃないけど、そんな雰囲気じゃないと思うよ。
ラーケン  またトリステルは唐突なことを(苦笑)。しばらく、そっとしといてやれば良いじゃねぇか。
ジョン  おや。こうしてみると、ラーケンにはダニエル、トリステルにはナタリー。オレ様にだけ“相棒”がいないのか。
GM  よりによって、薔薇族と百合族なカップリングやな(笑)。
ラーケン  確かに。これでダニエルが「兄貴ィ!」とか言いだしたら相当ヤバイな(笑)。
ジョン  トリステルなんて、手縫いの品を贈ろうとしたり、歌を聴かせようとしたり、求愛してるとしか思えないし(笑)。
ラーケン  今後、トリステルのことは「リリー」と呼ぼう。
GM  リリー・ザ・トリステル。
ジョン  おお、響きが格好良い!
トリステル  勢いで、妙なあだ名つけないでくださいよ(苦笑)。

 与太話で盛り上がりつつ、時間は刻々と過ぎていく。
 子どもたちが寝静まった頃を見計らい、打ち合わせどおり昨夜と同じ布陣で不寝番を張るPCたち(とダニエル)。しかし、この夜は建物の内でも外でも何事も起こらなかった。
 そして、翌朝。

ジョン  うーむ、不寝番は空振りだったな。
トリステル  ねぇねぇ、ラーケンさん。ダニエル君の仕事ぶりは、どうでした?
ラーケン  少なくとも、俺の知る限りは真面目にやってたぜ。だよな、GM?
GM  うん。それぞれ別の場所で見張ってたからアレだけど、おかしな動きをしたようには思えないね。
ラーケン  というわけだ。さぁ、お次は蜘蛛退治だぜ。ジヘイとの約束の時間まで仮眠しとこう。
GM  了解。では、何事もなく昼になる。そしてジヘイとの待ち合わせの時間だ。君たちは白竜亭へ向かう。
ラーケン  よぅ、おやじ。ジヘイはもう来てるか?
ホワイト(GM)  ああ、少し前に来られて、昨日のお部屋でお待ちだよ(にこにこ、ほくほく)。
ラーケン  今日も、俺たちには見せたことのない笑顔してやがるな(苦笑)。
ホワイト(GM)  そりゃもう。ジヘイさんは良いお客さんだからねぇ(にこにこ、ほくほく)。
ラーケン  ち、まぁ良いや。ジヘイのところへ行くとしよう。
ジヘイ(GM)  おう、来たか。どうしたんや、えらい目の下にクマができとるな(笑)。
ラーケン  ちょっといろいろ案件を抱えててな(苦笑)。大丈夫、仕事に支障はないからよ。

 白竜亭を出たPCたちは、ジヘイに連れられて地下道への入り口へと向かう。
 そこでジヘイが手配した道案内役のホームレスと合流し、さっそく地下へと潜ることになった。

ジヘイ(GM)  ええ報せを待っとるで〜。

(2)下水の傍で蜘蛛退治

ラーケン  さて、と。案内役に先導してもらって、とっとと片付けるか。
GM  では地下道。ちょうど汚物や生活排水がマステルルザ川へと流れ出ていくエリアらしく、悪臭がひどい。地下道の真ん中には、汚水が2m幅くらいの浅い流れを作ってるよ。
ジョン  うう、たまらんな、この臭い。
トリステル  通路の端の方は、汚水にまみれていないんですよね?
GM  そうだけど、汚水を避けたいなら、歩ける足場は広くないよ。無理しても二列縦隊、戦闘時のことを考慮するなら一列縦隊だ。
ラーケン  汚水を踏み散らして歩くのはごめんだ、一列縦隊で行こうぜ。
ジョン  ラーケン、トリステル、案内役のホームレス、オレ(ジョン)の順でどうだ?
トリステル  良いと思いますよ。
ラーケン  俺たち3人は、たいまつを1本ずつ持っておこう。
GM  では、右だ左だと曲がりながら奥へ。ちょうど十分ほどしたころ、案内役が警告する。「ここです。その角を曲がった先、10mくらいのところに巣を張ってます」
ジョン  ちょうど糸が届くくらいの距離か。陰険だなGM(笑)。
GM  案内役は「あとはお任せします」と言って、ずずずーっと後退する。少し離れた場所で、戦闘が終わるのを待っていてくれるそうだ。
トリステル  わたしたちが戻れなかったときは、逃げてくださいね。

 斃すべきジャイアント・スパイダーは、戦闘力はともかく糸が厄介な相手。こちらが角を曲がって接近したのでは、糸を飛ばされる可能性がある。
 そこで、ラーケンのアイデアで、曲がり角から巣に向けてたいまつを投げ入れることに。巣が炎上すれば、必然的にジャイアント・スパイダーは「犯人」を狙ってこちらへ向かってくるだろう、という作戦だ。

ラーケン  ヤツが突進してきたら、曲がり角で俺が食い止める。ジョンとトリステルは援護してくれ。
ジョン  待った。たいまつを投げつける前に、「エンチャント・ウェポン」をラーケンの剣にかけておこう。
ラーケン  そいつは助かるな。

 準備が整ったところで、ラーケンが曲がり角から身を乗り出して、たいまつを巣に命中させる。ジャイアント・スパイダーは、期待通りにたいまつを投げつけたラーケンの方へと走って(?)きた。
 というわけで、セッション開始から2時間半以上が経っている(!)が、このシナリオではこれが初めての戦闘だ。

行動宣言順:ジャイアント・スパイダー、ラーケン、トリステル、ジョン
行動順:ジャイアント・スパイダー、トリステル、ラーケン、ジョン(トリステルとラーケンは移動力が同値なのでD6で決定)

<第1ラウンド>
 スパイダー:曲がり角を曲がると同時に糸を放つ。これがラーケンに命中し、「二回攻撃」で短期決戦を挑むつもりだったラーケンを絡め取る。
 トリステル:土のエレメンタルを召喚するも、出目が悪く「中立」状態で呼び出してしまう。というより、そもそも戦闘前に呼び出しておけば良かったのに、トリステルったら、もう!
 ラーケン:絡まった糸のせいで、予定していた二回攻撃ができない。怪力に物を言わせて、どうにか糸からは脱出。
 ジョンは、後衛からダガーを投げるも、はずれ。

<第2ラウンド>
 スパイダー:目の前のラーケンを脚で攻撃。ラーケンに4点のダメージを与える。
 トリステル:前のラウンドで呼び出していた土のエレメンタルを「コントロール・エレメンタル」の呪文で「友好的」に。
 ラーケン:無理は承知の二回攻撃が、なんと両方ともヒット! 合計で20発以上ものダメージを叩き出し、一瞬でジャイアント・スパイダーを斃してしまう。

ラーケン  よっしゃあ、止めを刺すぜ。それから頭をザクザクと切り離して持ち帰ろう。
トリステル  うう、グロい……。
GM  一瞬で終わったな。もしかしてジャイアント・スパイダー、弱いのか?(呆然)
ラーケン  俺のダイスが走ったからだろ。当たりさえすりゃあ、ダメージには自信があるしな。
ジョン  そういや、オレが1ラウンド目に投げたダガー、回収しておこう。
GM  (悔しいから嫌がらせしてやれ)目標を逸れて、汚水の中だろうね。さぁ、拾え(笑)。
ジョン  いや、それは諦めるぞ。臭いのはヤだ(笑)。
トリステル  えー、もったいない。
ラーケン  うそっ、マジで! 金欠のくせにブルジョワやな、お前!

 驚きすぎだろ、ラーケン(笑)。
 けどまぁ、さすがはソイル・クロウラーの汚液にまみれたマントを大事に持って帰った男だ(笑)。ジョン君も少しは見習いたまえよ。

ジョン  良いんだよ、ダニエルのベッドから没収したダガーがあるし。
GM  返す気ないのかよ(苦笑)。

(3)GM、焦る

 無事、ジャイアント・スパイダーを斃して、地上へと戻ってきた3人は、さっそく白竜亭で待っているジヘイの元へと向かう。

ラーケン  ジヘイ、いるか。依頼、完了したぜ。
ジヘイ(GM)  おう、早かったな、まるで2ラウンドくらいでケリが着いたみたいやないか(笑)。
ジョン  いかにもその通りなんだな(笑)。
ラーケン  こいつが蜘蛛の頭だ。さて、報酬をもらえるかな?
ジヘイ(GM)  それがな……(いきなりパチンと手を合わせて)スマン、急に現金が必要になってもうてな、代わりにコイツで手ぇ打ってくれんか?
トリステル  コイツって、何か物品でしょうかね。
GM  スクロールだよ。何本あって、何のスクロールなのかは、ルールに則って決めてくれ。
ジョン  むしろ嬉しいじゃないか。売れば50GPどころの金額じゃないぜ。
ジヘイ(GM)  売るのはかまわんが、出所は明かすなよ。本当なら、魔術師ギルドを介さずにスクロールをやりとりするのはNGやからな。
ラーケン  心配するな。俺たちがどっかの遺跡で拾ったことにでもしておくさ。

 というわけで、スクロールの数と種類を決める作業に没頭するPCたち。魔術師の端くれとしてダイスを振ったジョンが良い目を出して、「ホールド」「コンフュージョン」「ファイア・ボルト」と、見事に未修得の呪文ばかりを引き当てた。

GM  (あれ? 蜘蛛退治のイベントって、報酬をゲットして終わり? 不審火の事件は何も進展してな……あっ!)

 スクロールを3本も手に入れて上機嫌なPCたち。その傍らで、GMだけが一人で青ざめる。大変なミスを犯していたことに、ようやく気づいたのだ。
 シナリオ上では、「ダニエルの喧嘩」の噂をたどってジヘイに接触した場合、好奇心の強いジヘイが“PCたちが何を調べているのか”に興味を持ち、勝手に首を突っ込んでくることになっていた。そして、事件の概要を知ったジヘイはPCたちに蜘蛛退治の対価として、報酬だけでなく事件の核心情報も伝えるはずだったのだ。
 しかし、街へ出て情報を収集しようとしないPCたちに痺れを切らしたGMが、本来は既に発生済みで噂としてPCたちに提示すべき「喧嘩騒ぎ」を、即興でリアルタイムにPCたちの眼前で発生させてしまった。そのため、PCは「何かを調べている最中にジヘイに行き着いた」のではなく「ジヘイが巻き込まれたトラブルを仲裁した」という形になったのだ。

ジョン  1本は金に換えたいんだが、どれにしようか。「ファイア・ボルト」を売ろうかな?
トリステル  けど蜘蛛退治のときだって、ダメージ系の呪文がないから細々とダガー投げてたでしょ。「ファイア・ボルト」は必要じゃないですか?
ジョン  なるほど、それも一理あるな……とりあえず、換金するのはもう少し後にしようか。
ラーケン  よっしゃ。早くカタが付いたし、まだ日は暮れちゃいないだろう。施療院に戻るか。
トリステル  ですね。今晩も不寝番でしょうから、休めるときに休んどかないと。
ジヘイ(GM)  (い、いかん。これはヤバイぞ……!)

 この流れでは、ジヘイが「PCたちが何かを調査中だ」と気づくはずもなく、したがって「PCたちに事件の概要を話すように促す」ことはありえない。そして、無関係にしか見えないジヘイという人物に対して「PCたちがみずから事件の概要を話す」という不自然なこともありえない。
 「ジヘイとの接触」が事件解決のトリガーになるという意識が強すぎたため、「ジヘイを登場させること」だけに気を取られてしまったGMの大チョンボである。本当は、「ジヘイが事件に興味を抱くこと」こそが事件解決のトリガーだったのだ。
 この部分の認識(=シナリオに対する理解)さえしっかりしていれば、軌道修正のチャンスはいくらでもあったはずだ。例えば、白竜亭でラーケンがトレジャーハンターだと明かしたときに「今はどんなヤマを追ってるんや?」と水を向けるとか、あるいは徹夜明けで目の下にクマができているPCたちを見たときに「何でそないに疲れとるんや?」としつこく訊くとか……。

ラーケン  というわけだから、院に帰ったら俺たちは仮眠するぜ。
GM  ん? ああ、仮眠ね。……いや、ちょっと待って。君たちがジヘイと別れて施療院に戻ると、何やら院内が騒がしいよ。
トリステル  あれま、よりによってわたしたちがいないときに何か起きたのかな?
GM  えー、まず施療院の診察室の方から、ソフィアさんの緊迫した声がする。「ダニエル、ナタリーのことをお願い!」
ジョン  おいおい何だよ、大丈夫なのか?
GM  ダニエルは二階へと駆け上がっていくね。そして施療院からは「大丈夫、気になさらないで。まずは落ち着いてください」というソフィアさんの声。
トリステル  重傷患者でも来たんでしょうか。わたし、診察室を覗きに行きます。
GM  若い男女がいるよ。ソフィアさんが、苦しそうに横たわっている女性の診察をしている。その横で男性は、パニクってるね。
トリステル  急に産気づいたのかな? 「ソフィアさん、手伝いましょう」と言いながら、手早く男性に「サニティ」。
ソフィア(GM)  ああ、トリステルさん。助かります。
トリステル  (ころころ)……あ、呪文失敗。ピンゾロです(笑)。
ラーケン  気の利いたことすると思ったら、何だよ。今回は全員がピンゾロを振ったな(笑)。
トリステル  (ころころ)……大丈夫、今度は掛かりました。
GM  では、一旦は男性のパニックは収まるよ。ソフィアさんが悶絶する女性を診ながら、「トリステルさん、こっちを手伝ってください」と呼んでるよ。
トリステル  はいはい、すぐ行きますよー。

 とりあえず、まだ披露していなかったイベントを起こして時間稼ぎをしつつ、必死にミスのリカバリーの糸口を探すGM。しかし実は誰よりもパニクってるのはGMなわけで……(苦笑)。
 まったく、「サニティ」をかけて欲しいのはこっちだよ(涙)。

第七章

(1)投石事件

ラーケン  俺も、湯を沸かすとか、できる範囲で手伝うぜ。
ジョン  じゃあ、オレはダニエルとナタリーの様子を見てこよう。ダニエルは階段を上がって行ったんだよな。
GM  そうだよ。子どもたちも二階を気にしているみたいだね。
ジョン  ならば二階へ行ってみよう。「ナタリーのことをお願い」ってことは、年長の女子部屋かな。
GM  うん。女子部屋の前に子どもたちが集まっていて、中の様子を気にしてる。ドアは開け放してあって、中ではダニエルがナタリーを抱きしめているよ。
ジョン  ナタリーは?
GM  しゃくりあげるように泣いているけど、一応落ち着いてはいるようだ。
ジョン  野次馬の子どもたちに、何があったのか訊いてみよう。
少女(GM)  ナタリーが診察室で雑用してるときに、患者さんが来たの。でも、ナタリー喋れないから。慌てた男の人が肩を掴んで「先生はどこだ、早く呼んでくれ」って。そしたら悲鳴を上げて……。
ジョン  それだけのことで? 男の人が怖いなのか?
ラーケン  昔、虐待を受けたことがあるのかもな。
トリステル  そんな暗い話は嫌ですね。
ラーケン  いや、こいつ(GM)は割りと人間の黒さが絡んだシナリオ、作るからなぁ。
GM  (完全に読まれてるなぁ……苦笑)
ジョン  とにかく、今は落ち着いてるというなら刺激しないようにそっとしておこう。おらおら、ガキども。お前らも、自分の仕事に戻れ(笑)。

 ジョンは念のため、しばらく部屋の外で待機、ラーケンとトリステルはソフィアさんの手伝いを続ける。

GM  じゃあ、30分くらいした頃だ。もう、患者さんの方はひとまず落ち着いてるんだけど、女子部屋のほうで事件が起こる。
ラーケン  患者が落ち着いたんなら、俺も二階の様子を見に行くと思うんだが。
トリステル  あ、わたしも。
GM  了解。ちょうどふたりが二階に上がった直後くらいに、女子部屋からガラスが割れる音がするよ。
ジョン  何事かと、中を見てみる。
GM  部屋の窓ガラスが割れていて、床に大小さまざまな石ころが転がっている。そして、壁にもたれるように座っているナタリーと彼女の肩を抱いているダニエルがいる。
ジョン  ダニエルたちの表情は?
GM  ナタリーは呆然と石ころを見つめて、小刻みに震えてる。軽いパニック症状かもしれない。ダニエルは、そんな彼女を庇うようにしながら、割られた窓を緊張した表情で見ている。
ジョン  ダニエルに訊こう。何があった?
GM  「突然、窓の外から石が飛んできて……」とダニエルは答える。
ジョン  窓に駆け寄って、外を覗いてみよう。
GM  時間帯的にはまだ人通りがそこそこあるんだが、逃げていくような人影はない。窓の真下あたりの地面には、けっこうな量の石ころが落ちてるね。
ジョン  どういうことだろう?
ラーケン  窓に命中しなかった石が、落ちてるんだろう。
トリステル  わたしたち、まだ到着しませんか。
GM  おっと。そうだなぁ、もう部屋に入ってきていても良いはずだね。
トリステル  では、「サニティ」を。(ころころ)……成功。ナタリーちゃん、落ち着いて。
ラーケン  間に合わねぇとは思うが、俺は外へ駆け出そう。
ジョン  オレもそうしよう。トリステル、ふたりを頼む。
トリステル  了解。任せてください。
GM  では、ラーケンとジョンは、建物の外、割られた窓の下あたりに駆けつけた。
ラーケン  足跡とか、ねぇかな。
GM  【痕跡追跡】で判定ロールしてみて。あ、いや違うな、足跡を見つけるのは【捜索】だ。
ラーケン  良かった、【捜索】なら持ってるぜ。ロール値は……14だ。
GM  良い目が出たな。しかし、日中は人通りがそこそこあるせいで、足跡が多すぎて怪しい足跡という見方はできないね。
ラーケン  くそ、確かにそりゃそうだな。
GM  騒ぎを聞きつけて、野次馬が少し集まってきたよ。「何だ何だ、投石騒ぎか? またこの孤児院かよ」みたいな声もチラホラ。
ジョン  怪しいやつを見なかったか、野次馬に呼びかけてみよう。
GM  お互い顔を見合わせて「そんなヤツいたか?」「さぁなぁ、俺は見てないけど」みたいにザワザワしてる。
ジョン  全員の顔を一人ひとりチェックしておこう。挙動不審なヤツとかいないかな、と。
GM  うーん、これといって特徴的な人はいないけど……ただ、唐突に野次馬の影からジヘイが現れるよ。
ラーケン&ジョン&トリステル  なんでこんなところに!(笑)

 だめ、無理(泣笑)。
 マスタリングしながらパニクった頭で軌道修正の方法を考えてたんだけど、全然思いつかない。降参、白旗。
 諦めたGMは、ご都合主義という批判を覚悟のうえで、NPC(ジヘイ)主導で進行させていく覚悟を決めた。

(2)さらば、スクロール

ジヘイ(GM)  あんたらのおかげで心配事がひとつ消えたしな、ちょっと例のあのガキについて調べとったんや。
ラーケン  なんでまたそんな酔狂なことを。
ジヘイ(GM)  この商売、トラブルは付きモンやが、後に禍根を残るようなカタチは良うない。念には念を入れとくんがワイの流儀や。

 我ながら強引だ、強引すぎる(涙)。まさか、必死にPCたちから情報を引き出そうと、GMが悶絶する羽目になろうとは。普通は、PC(プレイヤー)がGMから情報を訊き出すために頭を悩ませるものだけど、どこをどう間違ったのやら……(苦笑)。

ジョン  「例のあのガキ」って、ダニエルのことか?
ジヘイ(GM)  そんな名前らしいな。あんたら、あのガキとどういう関係や。あいつ、ヤバいんちゃうけ?
ラーケン  いや、根は悪人じゃねぇんだぜ。いま少しずつ更生しようと頑張ってるところだし。
ジヘイ(GM)  ヤバいのはあのガキやない。あのガキを恨んどるワルがおるんや。
ラーケン  スラム時代に何かあったんだな?
ジヘイ(GM)  まぁ、そういうこっちゃ。一年ほど前、そのガキに片目を潰された小悪党がおるらしい。
ジョン  一年前といえば、ダニエルは13〜14歳くらいじゃん。なんてガキだよ(汗)。
ジヘイ(GM)  相手の小悪党も10代らしいがな。5〜6人くらいのグループで無茶しよる相当のワルらしい。
ジョン  いわゆる「チーマー」とか「ゾク」みたいなもんか。
ジヘイ(GM)  野放しにしたら何しよるか分からんから、ギルドが管理する目的で組織に入れたほどや。とにかく狂犬みたいなヤツらしいで。
トリステル  この投石騒ぎは、その小悪党の仕業なのかしらん。
ラーケン  可能性はあるな。狂犬(強肩)だけに、石を遠くまで投げられた……と(ニヤリ)。
ジョン  な、なるほど!
GM  座布団1枚。

 オヤジギャク炸裂。永遠のティーンエイジャーを強弁してみても、こういうところにボロが出る。

ジヘイ(GM)  そういう噂を聞いたもんで、ちょっと気になって来てみたら……いったい何の騒ぎや、これは。
ジョン  (ラーケンを見て)さて。どこまで話して良いのやら。
ラーケン  ぶっちゃけてしまっても良いんじゃねぇか? ジヘイの情報網は大きいみてぇだし、何か知ってるかもしれねぇぜ?
ジョン  では、かくかくしかじか。放火犯を探していることをジヘイに話す。
ジヘイ(GM)  不審火ねぇ……。で、この投石騒ぎというわけやな。
ジョン  その片目を潰されたヤツが絡んでるのかもしれない。何か知ってるなら教えてくれないか。
ジヘイ(GM)  ふーむ。教えたってもええけど、タダっちゅうわけにはいかんなぁ。
ラーケン  ち、情報料か。
ジヘイ(GM)  そうやなぁ、スクロール一本で手を打ってもええかな(笑)。

 もともとジヘイに貰ったものとはいえ、本当に有用かどうかも分からない情報に「スクロール一本」というのは、さすがに高い。けど、ジヘイは善意の安売りはしない性格なので、きっとこれくらいは吹っかけるはずなんだ。

ジョン  むぐぐ、足元をみやがってぇぇぇ!
ラーケン  本当に役に立つ情報なんだろうな?
ジヘイ(GM)  さぁなぁ。ワイが一連の事件とやらを詳細に知っとるわけちゃうしな。いま聞かせてもらった範囲では、関係のある情報やと思うでぇ〜。
ジョン  手に入れた3本のスクロールのうち、1本くらいは換金しておきたかったんだがな。
トリステル  けど、お金に換えるより、本当はジョンさんに呪文を覚えてもらうのが一番良いんですけどね。
ラーケン  (素に戻って、キャラクターシートを指差しながら)ンなこたぁ分かってるさ! けど、コイツらだって食ってかなきゃならんのだ!(笑)

 というわけで、ここでPCたちは悩む悩む。確かに「スクロール1本」の換金分を諦めるのは惜しいが、だからといって施療院をこのまま放置しておくのは心情的に難しい。また、得体の知れない情報を法外なコストで買うということ自体が、PCたちにとっては無理のある行動である。
 しかし、

・ジヘイが蜘蛛退治のためだけにシナリオに登場するのは妙だ。
・以前のキャンペーンで、ジヘイが【召喚魔法】を使えることをプレイヤーは知っている。
・もしかして、ジヘイが知っている情報とは「エレメンタルに関すること」ではないか。
・セッション開始からもうじき4時間になろうとしている。

 といったことを加味して、結局はスクロールを1本手放して、情報を教えてもらうことになった。
 上記の根拠はどれもこれもあまりにゲーム的すぎるんだけど、どことなくプレイヤーの側にもGMが困っているらしい様子が見てとれたのか、「無茶は承知の上でGMに協力してやるか」という気配が漂う「決断」となった。
 みんな、スマンな(苦笑)。

ジョン  もったいないが……そうだなぁ、「コンフュージョン」をジヘイに渡そう。ていうか、返そう(苦笑)。
トリステル  ああ、本当にもったいない……(泣笑)。
ジョン  仕方ないだろ。それに、こういう便利そうなNPCとのパイプは太くしておくに越したことはないし(笑)。

(3)語られた真相

ラーケン  さぁ、さっそく知ってることを教えてくれ。
ジヘイ(GM)  おう、よっしゃ。実はな……。

 ジヘイの話によると、【召喚魔法】の素養がある子の意識が制御不能なとき(睡眠時やパニック時)、ごくまれに自覚なく四元素の力を放出することがあるという。
 突然、物が燃える、びしょ濡れになる。あるいは所構わず風が吹く、土砂や石が出現する――などが頻繁に起こるが、炎以外がもたらす「事件」は大惨事になりにくいので、悪質なイタズラとして放置されることも多い。また、そういう“暴走”は、十代半ばくらいまでに治まるものらしい。
 そういうわけで、「症例」そのものが極端に少ない。そのうえ、一時期にしか発生しない事象であるため、仮に研究しようとしたところでなかなか難しいだろうことは想像に難くない。

トリステル  うーん、どうやらビンゴですね。
ジョン  そうか? 放火と投石はともかく、水と風は?
ラーケン  風はちょっと分からんが、水はナタリーのシーツが濡れていた件だろ。
ジョン  おお、そういえば! あれ、本当に伏線だったのか!
ラーケン&トリステル  ……(苦笑)

 ちなみに、ソフィアさんの部屋でロウソクが消えたイベントが「風」なんだけどね。もともとかなり分かりにくい伏線だから、この際どうでも良いや(←ちょっと疲れてる)。

トリステル  一番怪しいのはナタリーちゃんですよね、やっぱり。
ラーケン  九割がた間違いねぇだろうな。
GM  ジヘイは「ワイも行商で各地を飛び回るうちに、一度だけそれらしいケースを見たことがあるで」と呟くように言って、遠い目をしている。
ジョン  ??? 何だよ、そりゃ。
ラーケン  肝心の解決方法を訊こうじゃねぇか。どうすりゃ治るんだ?
ジヘイ(GM)  そこまでのことは知らんな。ワイは単なる行商人やど。いや、単なるっちゅうのは嘘やな、めっちゃスゴ腕や(笑)。
ラーケン  ああ分かってるさジヘイ、アンタも素人じゃない(笑)。
ジョン  ラーケン、誰にでもそう言ってないか?(笑)
ジヘイ(GM)  とりあえず、元凶のガキを見つけて、ぶっ殺してもうたら安心やど。大量に死人が出るよりマシちゃうけ。
トリステル  そ、そんなわけには行きませんよ!
ジヘイ(GM)  まぁ好きにしぃ。ワイに言えるんはそれだけや。しかし、一銭にもならんことに私財をつぎ込むとは、アンタらも変わっとるなぁ。
ジョン  ふっ。何だかんだ言って、俺たちみんな、この家が好きなのサ(笑)。

 一同爆笑。
 ギャグとして言っただけなんだろうけど、ちょっと良いセリフだ。「家」という言葉のチョイスも、なぜかGMとしては嬉しかったり。

GM  ジヘイは、「ほな、また何かあったらよろしゅうに!」と言って立ち去るよ。
ラーケン  さて、これからどうするかな。
トリステル  力のコントロールの仕方を教えると、治るんじゃないでしょうか。
ジョン  そんなこと、できんのかよ。
トリステル  さぁ、どうなんでしょう?(と、GMの方を見る)
GM  (そっか、トリステルも一応は精霊使いだったか)うーん、どうかなぁ。自分の力量に照らしてみると、あまり自信はないだろうね。
トリステル  だそうです(苦笑)。

 相談の結果、PCたちはソフィアさんにすべてを伝えようと決めた。一連の騒動はエレメンタルの力が関わっているらしいこと。ナタリーが疑わしいこと。そして、自信はないけど(笑)トリステルが彼女に訓練を施してみようと思っていること。

GM  では、現場を離れて、屋内(施療院)に戻る。ソフィアさんは、ようやく一段落したようだ。
ジョン  ソフィアさん。疲れているところ悪いんだけど、相談が。実はかくかくしかじか。
トリステル  わたしにやれる範囲で、ナタリーちゃんにエレメンタルとの交信を教えてみようかと。
ソフィア(GM)  しかし、ナタリーには少し難しい事情がありまして。
ラーケン  というと?
ソフィア(GM)  彼女の実父は重度のアルコール依存症で、二年前、酒代欲しさに彼女を男に売ったんです。すぐに助け出したのですが、彼女はショックで声が出なくなっていました。
ジョン  ひでーな、その親。
ソフィア(GM)  それからは、彼女を私が引き取っているんですが、すっかり年上の男性を恐れてしまって。
トリステル  そりゃ、そうなっちゃっても不思議じゃないですよ。
ソフィア(GM)  言葉を取り戻して欲しいと、できるだけコミュニケーションを多くとらせるために、街へ遣いにやったりしてるんですが、なかなか……。
ジョン  ダニエルのことは、どうして平気なんだろう?
ソフィア(GM)  ひと月前、男たちに絡まれているところを助けてくれたとかで。以来、彼女はお遣いの最中に寄り道をするようになって(苦笑)。
ジョン  ほほう。
ソフィア(GM)  彼にも身寄りがないと聞いて、ナタリーの回復の一助になればと、ここに連れて来たのですが……。

 本当は、こういったことはもっと早くに伝えておきたかった情報なんだけど……。
 確かに序盤にはプレイヤーのミスもないわけじゃなかったけれど、ナタリーにせよダニエルにせよ、事件における「怪しさ」の描写が足りなかった。今回のマスタリングは、反省のオンパレードである(汗)。

ラーケン  何でもかんでも背負いこみすぎだよな、ソフィアさんは。面倒見が良すぎる。
ジョン  下は幼児から、上は27〜8歳のオレたちまで、な(笑)。
ラーケン  それを言われると、笑うしかねぇな(笑)。

第八章

(1)続く不寝番

ソフィア(GM)  とにかく、そういうわけなので、ナタリーを目の届かないところへ送り出すのは、ちょっと不安です。
トリステル  だったら、わたしがこちらへ通えば、問題ありませんよ。
ソフィア(GM)  それでは、今とあまり変わらない気がしますね(苦笑)。

 気持ちは分かるけど、トリステルの提案は問題の解決にはならない。一朝一夕で【召喚魔法】を習得できるはずがないから、今後もしばらくは同様の騒動が続く。ナタリーが“暴走”する危険を孕みつつ、この施療院とそこに暮らす人たちが生活していくことに何ら変わりはない。
 PCたちは、どうしたものかと頭を悩ませるが、イマイチ良い方法を思いつかない。例えば、

・【召喚魔法】は金属鎧を身に付けていると行使できないので、ナタリーにリングアーマーを着せて寝てもらう(ナタリーは熟睡できないかも?)。
・リト神殿にナタリーを預け、当番制で不寝番を付けてもらう(ソフィアと神殿を説得するのが難しそう)。
・魔術師ギルドにナタリーを預け、当番制で不寝番を付けてもらう(研究対象として扱われるリスクがある)。

 ……などの案が出れば、それぞれ難点はあれど検討の価値はあるだろうし、ひとつの決着のつけ方として認めても良いと思う。しかしこのときは、なかなか妙案が出てこないようだったので、GMはシナリオで用意された結末へ向けて少し時計を進めることにした。

GM  そうこうするうちに、そろそろ今日も日が暮れる頃合だ。さて、今晩はどうする?
ラーケン  とりあえず、どういう形にするにせよ、今晩は引き続き警戒を続けるしかあるまいよ。
トリステル  鳴子を設置して野外で見張るんですか? ナタリーが原因だと分かったんだし、もう鳴子は要らないんじゃない?
ラーケン  いや、一応まだ「隻眼の男」の可能性も消えたわけじゃねぇからな。
ジョン  えらく慎重だな。
ラーケン  こいつ(GM)のことだからな。「隻眼がフェイクでナタリーが元凶……と見せかけて実はやっぱり隻眼が犯人」という筋書を、俺は恐れてるんだよ(苦笑)。

 どんだけ疑われてんだ、GM(笑)。そんなにヒネクレてるかなぁ、私のシナリオ。わりと素直なシナリオを作ってるつもりなんだけど……。

GM  なるほど、では【罠操作】と【潜伏】のロール値を出しておいて。
ラーケン  せっかくだから、ひとつはダニエルにやらせようと思うんだが。
GM  (スキルや能力値は決めてないんだよなぁ。ま、IQは4か5くらいだろう)そういうことなら、スキルなしでIQの半分だとして……ダニエルの分は「2」をベースにどうぞ。
ラーケン  俺が振って良いんだな? よっ……と、お! 10が出た、ということはロール値12だ。
ジョン  結構やるじゃねぇか、ダニエル少年。
ラーケン  「これならそれなりに通用するぞ」と誉めておいて、俺のロール値は……(ころころ)うわ、目ぇ悪っ。
ジョン  どうした、師匠。弟子と同じような力量に見えるが?(笑)
ラーケン  うん、ちょうど同じくらいの出来だ(←朗らかな笑顔)。

 早くも弟子に追いつかれつつある(笑)ラーケンだけど、【潜伏】では面目躍如のロール値を叩き出した(ダニエルのロール値10に対して、ラーケンは17)。
 ラーケンとダニエルの屋外組は、今晩もこの布陣で(二手に分かれて)屋外を見張る。

GM  一方の室内組だけど、ソフィアさんが「気休めかもしれませんが」と言いつつ、【召喚魔法】が使えるトリステルの個室に「ナタリーを同室させてやって欲しい」と申し出る。
トリステル  別に相部屋は構いませんよ。ただ、わたしもそれなりに疲労してるので、今晩はちゃんと眠っておきたいです。
ジョン  なら、オレが部屋の外で不寝番をしよう。オレも疲労は残ってるが、許容範囲だからな。
ラーケン  「クリアボイアンス」を使うつもりだろう(笑)。
GM  トリステルとナタリーの百合シーンが観られたりして(笑)。
ジョン  いやいや。ナタリーの過去を聞いた今となっては、そんな冗談を飛ばせる空気じゃないから(苦笑)。
トリステル  そうですよ!
GM  (ほぼ情報は出揃ったし、ここはもう一気に行っちゃおう)よし、だったら深夜まで時間を飛ばすよ。OK?
トリステル  待ってください! 何時間くらい眠れます? その分だけでも、疲労ダメージを回復しておきたいです(必死)。
GM  (ダイスを振って)うーん、就寝後3時間くらいかな。
トリステル  てことは、何点回復できるんでしたっけ?
GM  (面倒くさそうに)最初の一時間は「入眠」扱いなので、通常の「休憩」と同じ1点。その後の2時間は「睡眠中」になるから、2点ずつ回復するはずだよ。
トリステル  つまり、5点回復ですね。
GM  たぶんそのはず。間違ってたとしても、リプレイでは直しておくよ(笑)。

 ハイ、すみません、間違えてました(苦笑)。
 「入眠」扱いの1時間も「睡眠中」と同じく2点回復できる、というのが正しいルール。たかが疲労ダメージ1点と侮るなかれ。SSSでは、疲労ダメージと負傷ダメージとの合算(=累積ダメージ)が死亡ラインに到達すれば、そのPCは死んでしまう。そこまでの事態にならなくとも、余力が1点足りないために重要な局面で呪文が唱えられないなんてこともありうる。
 ここは、1点にこだわったトリステルが正しい。面倒くさいからといって、うろ覚えのルールで対処しちゃいけないよね。(^^;

(2)炎上!

トリステル  まだ全快とはいかないですね……。あ、そうだ! 晩ご飯をご馳走になったはずだから、あと1点だけ回復してますよね。
ジョン  お! そのぶんは、オレの疲労も1点回復できてるよな。
ラーケン  俺のは負傷ダメージだから回復できねぇんだよなぁ。4点だから呪文で治してもらうほどじゃねぇしな。
GM  さぁ、回復フェイズはおしまい。話を進めるよ。
ラーケン  俺とダニエルは、屋外で寝ずの番だったよな。
ジョン  屋内では、トリステルがナタリーの傍について眠る。そして、そのすぐドアの外でオレが寝ずの番……と。
GM  了解。では、真夜中。トリステルは【聞き耳】を。睡眠中で意図していないので−6で。
トリステル  (ころころ)−6ということは、11ですね。
GM  6ペナで、そんな数字が出せるの?!
トリステル  エルフの耳はスゴいんです(えっへん)。
GM  じゃあトリステルは、隣のベッドで小さな呻き声がしていることに気づくよ。悪夢でも見ているように、ナタリーが脂汗をかいてうなされている。
トリステル  では、「サニティ」を。

 え、いきなり呪文? 普通、うなされてたら、まず起こそうとしないかぁ?(苦笑)

トリステル  (ころころ)はい、問題なくかかりました。
GM  (呪文の無駄使いだなぁ……)では、ナタリーの呻き声は静まる。さすがに目も覚ますだろうね、きっと。
ジョン  トリステルはチャントありで呪文を使ったんだよな? だったら「どうした、トリステル?」とドアを開けるぞ。女性の寝室とはいえ、遠慮して手遅れになっちゃ意味がない。
GM  了解。では、ちょうどそうやってジョンが扉を開けた瞬間。突如、屋外から悲鳴が上がる。
ジョン  なぬ、屋外?
GM  そう、屋外。さて、場面を移してラーケン。屋外で見張りを続けていた君にも、悲鳴が聞こえる。どうも、ダニエルが見張りをしている辺りっぽい。
ラーケン  むう、何事だ。急いで悲鳴のした方へ駆けていくぜ。
ジョン  オレは窓から外を見てみよう。
GM  ラーケンが駆けつけると、そこには炎上中のダニエルがいる。窓から覗いたジョンにも、少し離れた先で炎上している人影が見えるかな。
ジョン  いかん! 大声で「ソフィアさん、大変だ、診察室へ来てくれ!」と叫びつつ、オレは外へ向かおう。
トリステル  ナタリーにこのシーンを見せちゃダメだよね。わたしは、この場で彼女を抱きしめています。

 くそ、トリステルめ、余計な真似をぉぉぉっ! ナタリーが炎上するダニエルを見てパニクってくれないと、ラストバトルが起きないじゃないか!

トリステル  今、ナタリーちゃんの様子は?
GM  悲鳴を聞いて怯えているようだ。強張った身体が小刻みに震えているね。
トリステル  炎に関する夢とかを見なかったか、訊いてみます。
GM  彼女はガクガクと首を縦に振るよ。どうやら、それっぽい夢を見たらしい。
トリステル  そっか、しゃべれないんだった。この状況だと、あまり複雑なやりとりはできそうにないですね。
ラーケン  とにかく俺はダニエルの火を消そうとするぜ。マントでバシバシ叩きまくる。

 ダニエルがまとっている炎の火勢は3なので、鎮火の難易度は13。ダニエルの総合LVを1、DXを5だとして、ベースは6。ラーケンが鎮火を助けるのでロール値+2。つまり、ダニエルの2D6が5以上であれば、炎は鎮火へ向かう。

GM  ダニエルのダイスは、基本的に「師匠」に振らせてあげよう。
ラーケン  よし任せろ。(ころころ)…よっしゃ、クリアしたぜ!
GM  では、火勢が一段階弱まる。ただ、その間にもダニエルは炎でダメージを受け続けるからね。

 火勢が弱まったことで、次のラウンドには難易度がさらに下がる。ジョンが駆けつけるころには、ダニエルの炎は完全に鎮火する。ただ、その間もダニエルは炎のダメージを被り続けた。

GM  火はもう大丈夫だけど、ダニエルの火傷が結構ひどい。
ラーケン  俺たちじゃ手に負えねぇな。
ジョン  診察室に運ぼう。途中でオレが叫んだから、ソフィアさんが起きてくれてる……はずだよな?
GM  だね。ただ、日中の診療で消耗してるようだ。寝間着姿のままでテキパキと応急処置をしながら、騒ぎに気づいて起きてきた子どもたちに「トリステルさんを呼んできて!」と指示を出す。
トリステル  呼びに来られても……。ナタリーちゃんが震えてるし、無理ですよ。

 ククク……そうだよなぁ。ナタリーを一人にはできないよなぁ。トリステル、さぁ彼女を連れて来い。大火傷のダニエルを見てパニック、そして「暴走エレメンタル」との戦闘だ! 覚悟しやがれ。

(3)ラストバトル、不発

ジョン  ナタリーは、そのまま部屋に置いて来りゃ良いじゃん。
ラーケン  そうだな。火傷したダニエルを見れば、暴走しちまうかもしれねぇぜ。
トリステル  もちろん分かってますよ。だから、こうやってナタリーちゃんを抑えてるんですよ。
GM  けど、ソフィアだけじゃ、ダニエルの手当はしんどいみたいだよ。
トリステル  弱ったなぁ。ラーケンさんかジョンさん、どちらか代わりにナタリーちゃんに付いてあげてくださいよ。
ラーケン  忘れたのか、そいつは男恐怖症だ。
トリステル  あ。
ジョン  とりあえず、年長の子にでも付いてもらっとけよ。遠巻きにしてる子どもたちくらい、いるだろう。
トリステル  仕方ない、しっかりしてそうな女の子をつかまえて、「ナタリーちゃんをお願い」と頼んで診察室へと急ぎます。

 PCたちがナタリーの暴走を十分に警戒していたせいで、GMの思惑は大はずれ。ラストバトルは派手にやってやろうと思っていたのに、なかなか思いどおりにはならないもんだ(泣笑)。

 ちなみに、このシーン。その場にいないはずのラーケンやジョンがトリステルと会話しているんだけど、本来ならこういうことは禁じるべきなのかもしれない。しかしフォーカードでは、その辺はわりとルーズに対処している。
 「本当はその場にいないんだから相談するな!」という理屈は、正論だし尊重すべきだ。けど「本当は云々…」を語るなら、言葉を頼りに状況を把握するTRPGでは、本当ならその場にいるだけで苦もなく分かることが、意外と分からなかったりする。例えば「トリステル」には駆けつけた子どもたちの中に「しっかりしてそうな女の子」が見えているとしても、「トリステル役のプレイヤー」にも見えているとは限らない。
 見えるもの・聞こえた音・匂いなど、PCたちの五感のすべてをGMが完璧にプレイヤーに伝えるなんてことは、実際には不可能なわけで。にもかかわらず、そのことで生じるプレイヤーの「不利益」を、個々の発想力だけで解決させるのはあまりにシビアだ。プレイヤーたちが気を配り合うことでそのぶんを帳消しにしていると考えれば、こういう「便宜」はそんなに悪いことばかりじゃないと思う。

ジョン  良いか、みんな! 着衣のままの火傷のときは、慌てて脱がしちゃいけないんだぞ。
ラーケン  まぁそうだわな。治癒後の傷跡が酷くなったりしちまうし。
GM  (冷淡に)けどこの世界なら、「キュア・ウーンズ」で一発。
ジョン  ちきしょー、魔法なんて大キライだ。

 魔術師のハシクレじゃなかったのか、ジョン(笑)。

トリステル  では、「キュア・ウーンズ」いきます。(ころころ)呪文は成功で……、(ころころ)えーと9点回復。
GM  (ほぼ全快だな)ダニエル君の傷跡はみるみる治っていく。傷跡も残らずに済みそうだ。呼吸も穏やかになったし、もう大丈夫だろう。

 火傷に限らず、いわゆる「外傷」は呪文で治療すれば傷跡が残らない。
 ラーケンやダニエルのスカーフェイスなんかは、傷ついてから治癒に至るまでの間に、呪文をかけてもらえる機会がなかったんだろうね。

ラーケン  さて、どうするか、だな。俺は、こいつ(ダニエル)が意識を取り戻したら、すべてを話そうと思う。
トリステル  ナタリーちゃんには、どうしましょう。
ラーケン  それはお前が考えろよ。そで触れ合ったのはお前だ。
ジョン  ここで対処を間違えると、また暴走しそうだぞ。
トリステル  そうなんですよねー、好きな人を燃やしちゃったんだもん、ショックですよねー。
ラーケン  ハッキリ言わなくても、もう何となくは分かってそうだけどな、本人も。
ジョン  ナタリー、まさかのIQ3ってことは(笑)。
GM  ないよ(苦笑)。

 結局、決定的な妙手は思いつかず、長考に疲れたPCたちは、ナタリーちゃんに「眠っているダニエルの傍らに付いていてやってくれ」とだけ手配して、今後のことは明日また仕切り直して相談することにした。

ラーケン  俺は、もう一度、施療院の周りを見回っておこう。火の粉が飛び火したりしてねぇか、念のためにな。
トリステル  わたしは疲労ダメージを回復しておきたいので、夜明けまでの残りの時間、眠っておきます。
ジョン  結局いま、ダニエルとナタリーはどこにいるんだっけ?
GM  施療院の診察室。簡易寝台にダニエルがいて、その傍らでナタリーが丸椅子に座ってる感じ。
ジョン  じゃあ、オレは診察室のドアの脇にでも控えていよう。またナタリーが力を暴走させたら大変だ。
ラーケン  ちょくちょく仮眠しているとはいえ、俺たち、そろそろ限界じゃねぇか?(苦笑)
ジョン  だよな。このところ、ろくに眠ってない(苦笑)。

第九章(最終章)

(1)ラストバトル、やっぱり不発

GM  では、その後は何事もなく翌朝。2時間くらい眠れたかな。
トリステル  じゃあ、疲労ダメージが3点回復ですね。(←注:いい加減なGMのせいでここも間違えてる)
ジョン  ダニエル君とナタリーちゃんの様子はどうだ? ドアを少し開けて覗いてみるが。
GM  そうだなぁ。差し込む柔らかな朝日のなか、椅子に掛けてるナタリーが寝台で横になってるダニエルの手を握って、彼の胸に乗っかるようにして寝息を立ててるかもね。
ジョン  微笑ましい光景だな(笑)。
GM  うっすらと目を開けてナタリーに気づくダニエル。すぐにナタリーも目覚め、「あっ、やだ」みたいな感じで赤面(笑)。
ラーケン  ち、やってろ。ふたりが目を覚ましたなら、ナタリーに席を外してもらって、俺はすべてを話すぜ。「これこれこういうわけだと思われる。だが、彼女に罪はない。許してやってくれ」
ダニエル(GM)  もちろんだよ。それよりナタリーはどうなるんだい?
ラーケン  彼女の力の暴走については、いま治す方法を考えてる。お前はお前なりに、彼女を支えてやれ。できるか?
ダニエル(GM)  けど、何ができるかな。
ラーケン  そうだな、お前はまず辛抱を覚えろ。些細なことでキレると、お前だけじゃなく施療院の評判も下がる。そこに暮らすナタリーも辛い思いをする。
ダニエル(GM)  うーん、でもカッとなりやすいのは性分なんだ。
ラーケン  そういうときは思い出すんだよ、背負ってるモンがあるってことを。
GM  (素に戻って)ダニエルくん、まだ14歳やのに(苦笑)。
ラーケン  年齢は関係ねぇ。ナタリーのことが大事なら、やるんだよ。あの子を守るということは、そういう重荷を自ら進んで引き受けるってこった。
ダニエル(GM)  ……分かった、やってみるよ。
ラーケン  技術的なことは、できるだけのことを教える。早く仕事を覚えて、施療院の暮らしを助けてやれ。

 こういうときのラーケンの言葉の使い方は、惚れ惚れする。あんまり誉めちぎっても気持ち悪いだけだから、ここでは割愛するけど(笑)。

ジョン  さて、問題はナタリーの方だよなぁ。
トリステル  やっぱりすべてを話しましょうか。
ラーケン  とりあえず【召喚魔法】を教えてやって、力がついた頃にすべてを話すってのもアリかもな。
ジョン  しかし、順番がどっちだろうと、今後も寝ずの番が必要なことには変わりがないんだよな。
トリステル  一か八か。少々のリスクは覚悟の上で、とにかくまずは真実を知らせましょう。
GM  おっけー。では、君はナタリーちゃんをつかまえた。
トリステル  落ち着いて聞いてね。実はかくかくしかじかなんです。でも【召喚魔法】を学べば、治せるかもしれません。
GM  さぁて、ナタリーはどんな反応を示すかなぁ。パニックになるよね、きっと(にやにや)。

 この瞬間、GMの脳裏には、一度は諦めかけていた「ラストバトル」実現への一筋の光明が見えていた。
 しかし、回避できていたはずの戦闘をGMが無理矢理に発生させたがために戦死者が出る、なんて話は枚挙にいとまがない。これは、偉大なる先達(と書いて「き○まつみ○き」と読む)が身をもって(と書いて「りぷれいをつうじて」と読む)教えてくれたこと。同じ轍を踏まぬように注意が必要だ。
 迷った挙句に、GMはTRPGを愛する者らしい結論を出した。そう、ダイスの神様に啓示を求めようというのだ(笑)。

GM  よし。ここはひとつ、トリステルがナタリーが錯乱しないように上手に説明できたかどうか、ダイスを振り合おう。【情報】スキル……は違うなぁ。「総合LV+IQ」かな、やっぱり。
ラーケン  いやいや。ここはWPだろ。魂と魂の語らいだよ! ガチンコだよ!
GM  よっしゃ、それで行こう。「総合LV+WP」だ。
トリステル  わたし、IQとWPは両方とも同じ値なんで、どっちでも良いですけど。
ラーケン  冷めたことを言うな! 気持ちの問題だよ、気持ちの!

 そのとおりだ、ラーケン。ラストバトルを派手に繰り広げるためにも、GMは気合いを入れてダイスを振っちゃうぞう!(←馬鹿)

GM  (ころころ)ナタリーのロール値は15! どうじゃい、ダイス目10だぞ!
ジョン  おお、でかいな。
トリステル  てことは、わたしは7以上を振らなきゃですね。……ていっ!(ころころ)よし、こっちも10出た!
GM  ちくしょー、負けたぁ〜。
トリステル  偉大なるリト神よ、感謝いたします!
GM  では、かろうじてナタリーはひどいパニックにはならずに済んだ。
トリステル  というわけで、ダニエル君も支えてくれると言ってくれたし、わたしと一緒に訓練をがんばりましょう。
GM  ナタリーは戸惑いの表情を見せつつも、こくんとうなずくよ。

 せっかく用意しておいたんだから、ラストバトルを是非! というGMの悲願は、これで完全に潰えた(しくしく)。
 仕方ない。PCが巧く立ち回った結果だけでなく、ダイスの神様の采配をも捻じ曲げるのはさすがに芳しくない。少々盛り上がりには欠けるけど、後は大団円へ向けて一直線だ。

(2)トリステル、吠える

ジョン  オレだけ暇なんで、ソフィアさんの部屋にコーヒーでも持って行くかなぁ(笑)。
ラーケン  お前というヤツは……(苦笑)。
GM  (それ良いな、いただき!)

 どのタイミングでエンディングに持っていくか考えあぐねていたGMは、ジョンの冗談に乗っかる形で、舞台をソフィアの部屋へと移すことにした。

GM  ソフィアさんの部屋のドアをノックしたら、「どうぞ」と促されるよ。
ジョン  おお、本当にコーヒーを運んできてしまった(笑)。
GM  君が間抜け面でドアを開けると、そこには残念、先客が。ソフィアの向かい側に、ジヘイが座ってる。
ジョン  へ? ジヘイがまた何で? ……ま、良いか。とりあえず、コーヒーを2杯持ってきておいて良かったよ。「ジヘイさん、コーヒーどうぞ」(笑)
ラーケン  本当は、誰と誰が飲むつもりだったんだか(苦笑)。
ジョン  そりゃあ、オレとソフィアさんに決まってんじゃねーか(泣笑)。
GM  残念だけど、コーヒー2杯じゃ足りない。来客は一人じゃない。ジヘイの傍らに若い女性がいる。
ジョン  仕方ない。「お連れの方、コーヒー追加ですぐにお持ちしますね〜」(笑)
ソフィア(GM)  ジョンさん。コーヒーは良いので、ちょっと聞いてください。この方たちが、ナタリーを預かると言うんですよ。
ジョン  あらら、そう来たか。しかし一体なぜ?
ジヘイ(GM)  こちらは盗賊ギルドの幹部、ロップイヤーはんや。凄腕の精霊使いでもある。あのチビの面倒をみてくれるそうや。
ジョン  なるほど。しかし、それはオレだけに聞かされてもなぁ。今回、オレは絡む相手がいなくて、どっちかっつーと暇してる部外者だから(苦笑)。

 というわけで、ナタリーとダニエルが部屋に呼ばれる。盗賊ギルド絡みの話ということで、カルロスも呼ばれた。もちろん、ラーケンとトリステルも同席することに。
 かくして、最初から部屋にいたソフィア、ジヘイ、ロップイヤー、ジョンも含めると総勢9名が、決して広いとは言えないソフィアさんの部屋にひしめき合う異様な事態となった(苦笑)。

ジョン  こりゃいかん。コーヒーが全然足りないな(笑)。

 ……などと暢気なことを言ってるのは、ジョンだけ。「ナタリーの今後」に関する話し合いは、当然ながら簡単には落着しない。

GM  ダニエルとソフィアは、猛反対。盗賊ギルドにナタリーみたいな少女が放り込まれるなんて! てなもんやね。
ラーケン  そりゃまぁ、そうだろうな。他の人たちは?
GM  カルロスは沈黙。ジヘイは「この町の盗賊ギルドのことはよく知っとるが、トップが信用できる人間や、安心してくれ」と言ってるね。
トリステル  盗賊ギルドのトップって、バロンさんですよね。若い娘をはべらせてハーレム状態とかいう。
ジョン  いや、あの人が囲うのはエルフの血統だけだ。そういう意味ではナタリーは大丈夫じゃねーか?
ラーケン  ナタリーの様子は?
GM  うつむいてる。黙ってみんなの話を聞いてるようだ。
ジョン  ロップイヤーは?
GM  無関心。「私は別にどっちでも良いんだけど」みたいな風情で傍観してるよ。
トリステル  わたしは、盗賊ギルドに連れてくのは反対です。どうにかして、わたしが教えてあげたい。
ラーケン  だが現実問題として、俺らには俺らの生活がある。ソフィアさんだって暇じゃないし、ナタリーにずっと誰かが付いてるなんてことは無理だ。
ジョン  だよなぁ。
ジヘイ(GM)  ワイが話をつけたから、このチビが泥棒稼業に手を染めるようなことはありえへんし、身の危険もあらへん。
トリステル  そんな保証がどこに?
ジヘイ(GM)  盗賊ギルドは適切な報酬さえ支払えば、約束を守りよる。それに、ここのギルドなら、周りを女だけで固めることもできる。
ジョン  まぁ、エルフやハーフエルフの娘をいっぱい連れてるからなぁ(苦笑)。
ジヘイ(GM)  力量のある精霊使いに教わったほうがエエに決まっとる。どう考えてもアンタ(トリステル)と彼女(ロップイヤー)とでは、勝負するまでもないやろ。
トリステル  今のところはね!
ジョン  おお、珍しくトリステルが闘志を燃やしている!(笑)
ラーケン  気持ちは分かるが、ジヘイの言うとおりだぜ。それに、俺たちゃ危険と隣り合わせの稼業だ。「戻って来れない」なんてこともありえるんだし。
トリステル  どうしてもと言うなら、わたしも盗賊ギルドに付いて行きます。(素に戻って)このシナリオを最後に、トリステルがNPCになったとしても構いません。

 このシーン。
 実際のセッション中は、なんでこんなにトリステルが食い下がってくるのか、不思議で仕方なかった。だけど、あらためて録音データを聞き返してみると、彼女の行動には一理あるという気がする。彼女は、まだ若いエルフだし、神官だ。そんな彼女からしてみれば、盗賊ギルドに12歳の少女を送り込もうというプランなんて考えられないことなのだろう。PCという立場を捨ててNPC扱いになったとしても良いから、と食い下がる姿は、むしろ立派なキャラプレイだったのかもしれない。
 逆にラーケンやジョンは、シナリオで用意されていたと思しき結末が見えてきたので、一定協力的なスタンスで納得の道筋を探そうと動いている。プレイヤーとしてはジヘイが極悪人でないことも、ロップイヤーが危険な犯罪者ではないことも知っている(ロップイヤーは、以前のキャンペーンでPCだったのだ)から、この特異ともいえる結末の合理化に繋がる理屈を並べてくれてるんだと思う。
 ストーリーの意図を汲んである程度は搦め手や小技を使って巧く立ち回ることを私は否定しないし、むしろプレイヤーとしての私はどちらかというとそういうタイプだ。そういうスタンスとトリステルのようなスタンス、どちらが正しいとは一概には言えないんだろうけど、あらためて振り返ってみるといろいろと考えさせられる場面だったな、と思う。

(3)少女の決断

ジヘイ(GM)  あのなぁ、嬢ちゃん。盗賊ギルドがワケの分からんガキ預かってくれるいうだけでも、それはそれはエライこっちゃねんで? このうえ、さらに神官様までギルドの内部に住まわすんかい。ありえへんやろ。
トリステル  けど、わたしはナタリーちゃんの力になると約束したんだし、ここは絶対に譲れないです。
ジヘイ(GM)  嬢ちゃん、頑固やなぁ(苦笑)。
ラーケン  なぁ、当の本人はどう思ってるんだ?
ジョン  さっきからずっと、オレもそれが気になってたんだが。
トリステル  そうやって水を向けたら、「行く」って言っちゃいますよ、彼女。だから、あえてわたしは訊かなかったのに。
GM  ラーケンがナタリーの意思について言及すると、どうしたって部屋中の視線がナタリーに集まる。その注視を浴びた彼女は、少しの逡巡のあと「……私、行きます」と小さな声でつぶやくよ。
トリステル  やっぱり〜(悲)。
ジョン  (ラーケンの方を向いて)いや、ていうか。
ラーケン  ああ。ナタリーは、声を出してしゃべったんだな?
GM  しゃべったよ。――「ロップイヤーさんに教わったほうが、早くこの体質を治せる可能性が高いんですよね? だったら私、行きます」
ジョン  彼女の決意が、失われていた声を呼び起こしたか。
ラーケン  とにかく本人が選んだ道だ。これで、決まりだろ。
GM  すかさず、ダニエルが「でも!」と食い下がるんだけど、ジヘイが一喝する。「このチビがガキでなくなるために頑張る言うとるのに、ガキのまんまの阿呆に邪魔されたらかなわんなぁ!」
ラーケン  言うねぇ、ジヘイ。ダニエルはどんな感じだ?
GM  君に言われた「辛抱を覚えろ」という言葉を噛みしめてるのか、ぐっと堪えてるみたいだ。冷静でいようとしている。
ラーケン  よしよし、それで良い。
ナタリー(GM)  私、早く治して、またここに戻ってきます。そして、院長先生や皆さんに恩返しがしたい。もちろん、ダニー、あなたにも。
ジョン  ダニー、ときたか(笑)。で、そのダニーの反応は?
GM  彼はしばらく黙り込むんだけど、ついには「分かった、がんばってこいよな」と笑顔を作る。
トリステル  ソフィアさんはどんな様子ですか。
GM  ソフィアは、ナタリーが言葉を取り戻したことに、ただただ驚いているね。
トリステル  うーん、ここまでかな。残念だけど、わたしも引き下がります。いつでも相談に乗るからね、とだけ言っておきましょう。

 というわけで、ナタリーをロップイヤーに預けるということで、どうにか決着。
 トリステルが最後の最後で折れてくれたわけなんだけど、「あくまでも信念を貫き通す」というのも、そして「GMがそれを認めてあげる」という決着もアリだったのでは……なんて今さらながらに思わなくもない。

ラーケン  結局、今回は現金収入ゼロだな。
トリステル  どうもこのパーティは、なかなか懐が温まりませんね。
ジョン  スクロールを売って、どうにか食いつないでる感じだもんな(苦笑)。
ラーケン  自分たちの明日の暮らしが見えてねぇってのに、他人の世話を焼いてる場合じゃねぇよな、俺たち(苦笑)。
GM  愚痴ってるところ悪いけど、方向性が決まった途端、沈黙を守っていたカルロスがナタリーに声をかける。
ジョン  しまった。カルロスがオイシイとこ持ってこうとしてるぞ(笑)。
カルロス(GM)  世の中、悪い男ばかりじゃない。信じても良い男もいる。ダニエルやこの人たち(PC)には、遠慮なく相談すりゃあ良いんじゃ。
ラーケン  爺さん、語るねぇ。人生60年の齢の功か(笑)。
GM  放っておいたら、彼が締めちゃうぞ(笑)。ダニエルの頭をクシャクシャしながら「なぁに、ときどきは帰ってきても良いってことなら、何も寂しいことなどありゃせんよ」。
ジョン  考えてみたら、カルロスって結構目立ってるよなぁ。
ラーケン  元はと言えば、スリに失敗して変態扱いされてたくせにな(笑)。
トリステル  GMに愛されてますよね。
GM  そうやねん。実は、「余命わずか」という設定を後悔してる(笑)。
トリステル  奇跡が起きたら良いのにね。
GM  それはともかく、締めに用意した台詞があるので、せっかくだから言わせてね。最後にカルロスは、ロップイヤーにこう言う。「しかし、あんた、なかなかの美人じゃの。今度ワシとデートせんか?」
ジョン  こ、この爺さん、どさくさ紛れに何を(苦笑)。
ラーケン  まったく。そう簡単には逝かねぇぜ、このぶんだと(笑)。

(了)


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