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不定期コラム

TRPGとは?

2007.07.01 記

1.会話で遊ぶRPG

 「TRPG」とは、「テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム」の頭文字を取ったものです。

 「ロール・プレイング・ゲーム」と言えば、架空の世界を舞台に主人公とその仲間たちを操作して、立ちはだかる怪物たちを倒し、より強力なアイテムを集め、いくつものサブ・ストーリーを体験しながら主人公たちをどんどんレベルアップさせ、最後の最後には超強力なボスキャラを倒す――と、だいたいこんな感じで進められるコンピュータ・ゲームを思い浮かべる人が多いでしょう。「RPG」とか「ロープレ」なんて略されたりもしますが、コンピュータゲームの人気ジャンルのひとつですね。
 しかし、「テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム(TRPG)」となると、あまり見聞きしたことがないという方も多いかもしれません。

 これから紹介する「TRPG」と、ドラクエなどの「コンピュータRPG」とのもっとも決定的な違いは、文字通り「テーブルトーク(テーブルでの会話)」というキーワードにあります。

 コンピュータRPGを遊ぶときには、コントローラーを操作してやりたいことをゲームソフトのプログラムに伝えます。TRPGにおいても、この「ゲームソフトのプログラム」に相当するモノがあります。それが、「ゲーム・マスター(GM)」と呼ばれる「生身の人間」です。
 TRPGを遊ぶときには、GMが事前に「シナリオ」を用意します。「シナリオ」とは「ゲームの筋書き」と考えてもらって構いません。ただし、ゲームの筋書きだけでなく、町や村、主人公たちに絡む脇役たち、あるいは倒すべき怪物たち、危険な罠に満ちた迷路などなど、そういった様々な設定も含まれています。

 GMは、自分だけが知っているシナリオから情報を小出しにして、プレイヤーに与えます。それらの情報をもとにして、プレイヤーは自分の行動を決定してGMに伝えます。すると、GMはやはり手元のシナリオに基づいて、プレイヤーの決定で状況がどのように変化したかをプレイヤーに教えます。これを繰り返すことで、TRPGという遊びは進んでいきます。
 このように、TRPGとは「GM」と「プレイヤー」とが、言葉のキャッチボールをしながら遊ぶRPGなのです。

2.旅の仲間を集めよう

 会話で遊ぶゲームである以上は、当然「TRPG」はプレイヤーひとりだけでは遊ぶことができません。
 この「一緒に遊んでくれる人が必要である」というTRPGの宿命は、ひとりで気楽に遊びたいという人にとっては大変な欠点です。しかし一方で、この欠点こそがTRPGの最大の特徴であり、多くの人を惹きつけてやまない魅力なのです。

 まず、プレイヤーは「ゲーム中でのキャラクター」を用意します。このキャラクターのことを「プレイヤー・キャラクター(PC)」といいます。PCはゲーム中におけるプレイヤーの分身であり、GMが用意したシナリオの主人公的な重要人物です。
 プレイヤーはこのPCという「架空の人物」になり切って、GMが用意した「架空の世界」に挑むのです。
 コンピュータRPGでは、仲間たちの行動もひとりのプレイヤーが全部決めます。しかしTRPGでは、(理由はいろいろあるのですが)ひとりで何人ものキャラクターを受け持つことはとても大変です。そのため、プレイヤーひとりにつきキャラクターもひとつだけ、というのが一般的です。

 プレイヤーがひとりだけの一人旅よりも、プレイヤーが何人か集まってパーティ(ともに旅をする団体)を組んだ方が、ゲームはずっと面白くなります。ただし、逆にプレイヤーの数があまり多すぎると、今度はそれぞれのプレイヤーの「見せ場」が減ってしまいます。
 少なすぎず、多すぎず。プレイヤーの人数は、大体3人から6人くらいがちょうど良いでしょう。これにGM1人を加えて合計4人〜7人程度が、TRPGを遊ぶのに適した人数だと思います。

3.「人間の脳」のチカラ

 コンピュータRPGでは、酒場の看板娘をデートに誘いたいと思っても、あらかじめ「プレイヤーが看板娘を口説いた場合」についてのプログラムがない限り不可能です。
 しかし、TRPGは違います。PCのひとりが看板娘を気に入ったならば、GMに「このコを口説いてみようと思う」と伝えれば良いのです。

PC ねぇGM。この可愛い女のコに、「仕事が終わるのはいつ?」と尋ねたいんだけど。
GM うーん、そうだなぁ…。看板娘は「今日の仕事はもうすぐ終わるけど…」と答えるね。
PC 「お、じゃあ、このあと付き合ってよ。良い店を知ってるんだ。こんなショボい店じゃないぜ?」
GM ほほう、ではカウンターの向こうから野太い声がするぞ。「ショボい店で悪かったなぁ〜」
PC げ、店のマスターに聞かれたか!
GM 「お客さん。ワシの娘を連れて、ワシの店以外の酒場で酒を飲むってか?」
PC うがー、しかもこのコの親父さんかよ! こりゃマズいぞ(苦笑)。

 GMが用意したシナリオに、「酒場でPCが看板娘に仕事の終わりを尋ねたら『もうすぐ終わる』と答える。もしPCが娘を連れて別の酒場へ行こうとした場合、店のおやじが現れてPCに詰め寄る。そのときのセリフは…」などと、こと細かにあらゆる可能性を想定した対処法が書いてあるわけではありません。こういう、PCの突然の思いつきには、GMが「アドリブ」で対応するのです。
 一般に、シナリオには、こんな感じで簡潔な設定が書かれている程度です。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
<町の酒場>
 可もなく不可もない、どこにでもあるような小さな酒場。しかし、看板娘のカレン(15歳)は愛嬌も器量も良い評判の看板娘で、その明るい笑顔が常連客の目当てだったりする。
 店のおやじのアーノルド(50歳)は、180cm90kgとなかなかの巨漢で、もとは流れの戦士として冒険者稼業をやっていた。彼は娘のカレンを溺愛しており、店の看板娘としていつも目の届くところに置いている。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 PCのひとりが看板娘にちょっかいを出したとき、GMはシナリオに書かれたこの部分を考慮して、先述のような展開になると判断したわけです。
 このように、GMという「人間」が臨機応変に対応できるがゆえに、TRPGにおけるプレイヤーの自由度はコンピュータRPGとは比較にならないほど格段に高くなります。この「アドリブ」というものは、人間の脳だけに可能な、コンピュータには真似のできない「妙技」と言えるでしょう。

4.「言ったモン勝ち」じゃゲームにならない

 アドリブを可能にする「人間の脳」のおかげで、TRPGでは、プレイヤーはコンピュータRPG以上に自由に冒険を楽しむことができます。
 しかし、例えば怪物との戦いの場面などはどうなるのでしょうか。

GM 部屋の中には骸骨が立っていた。君たちが扉を開けると同時に襲いかかってきたよ。
PC 骸骨ごときなら、頭を叩き割って一撃で倒してやるぜ。さぁて、部屋に宝箱とかないかな?
GM ちょっと待った。君の実力じゃそんな簡単に勝てないよ。
PC はぁ? だって、相手はたかが骸骨だろ? 動きも鈍いだろうし、俺様の敵じゃないね。
GM いやいや、骸骨だって駆け出しの戦士ごときに簡単にやられはしないさ。
PC そんなはずないって。確かにこのキャラは駆け出しだけど、そこまで弱くないぞ。

 これでは、いつまでたっても解決することなどできません。「人間の脳」だけで遊ぼうとすると、子どものゴッコ遊びみたいな状態になってしまうわけです。

たかし君 絶対、俺のビームのほうが強いんじゃ。
けんた君 何でやねん、そんなビーム簡単に避けれるやんけ。
たかし君 アホか、ビームやぞ。避けれるかっちゅーねん!
けんた君 メッチャ速く動いて避けるっちゅーねん!
たかし君 俺のビームは時速100おくまんきろで飛ぶんやぞ!
けんた君 俺は、その10倍のスピードで走れるんじゃ!

 ホラ、五十歩百歩はあれど、そっくりです(笑)。
 TRPGは、プレイヤーとプレイヤー、あるいはGMとプレイヤーとが対立して相手を淘汰することを目的とした「競争のゲーム」ではありません。しかし、ゲームの最中に戦闘や衝突が起こることは少なくありません。

 そういったときに不毛な言い争いを避けるため、TRPGではある一定のルールに従って遊ぶことになっています。PCの強さや怪物たちの強さ、戦いになった場合の判定の仕方などが、ちゃんと決められているわけですね。
 このようなゲーム中に必要となるルールを整理して集めたものを、「システム」といいます。

5.スリルを生む仕掛け

 TRPGのシステムにおいては、「AとBが戦ったときは必ずAが勝つ」などという画一的かつ局地的なルールは存在しません。
 そのようなルールを逐一用意しておいたのでは、ルールが物凄い分量になってしまいます。覚えるのも大変ですし、ゲーム中にルールを参照したいと思っても、探すだけで一苦労です。

 そもそも、ルールで「AとBが戦ったときは必ずAが勝つ」などと決められていたのでは、ゲームとしての盛り上がりに欠けると思いませんか。スポーツの試合でも、どっちが勝つか分かりきっている試合なんてつまらない。どっちが勝つか分からないからハラハラドキドキするんです。

 この「どっちが勝つか分からない」という状況を作り出すために、TRPGでは、理屈や論理的な推測に頼るだけでなく「ランダム性」という要素を取り入れています。ある事柄についてどういう結果が起こるのか、その判定結果にランダム性を持たせることで、ゲームとしてのスリルが生まれてきます。
 ランダム性を生むための小道具として、よく使われているのが「ダイス(サイコロ)」です。
 ダイスを転がして乱数を求めれば、どんな数字が得られるか、そしてどんな結果に終わるかが予測しにくくなります。つまり、「どっちが勝つか分からない状況」が生じるわけです。


 アドリブという即興的かつ柔軟な対応を可能にする「人間の脳」。
 判断に迷う状況になったときに基準にできるルールを集めた「システム」。
 いつも同じ結果になるとは限らないスリルを生む「ランダム性」。

 ――この3つがバランス良く絡み合うことで、TRPGという遊びは成立しているわけですね。

6.TRPGこそが元祖だっ!

 さて、ここまではTRPGをできるだけ簡単に説明するために、いささか乱暴だとは知りつつも、「TRPGとは、コンピュータRPGを会話によって遊ぶもの」という切り口で書いてきました。TRPGをまったく知らない人にとっては、その方が分かりやすいだろうと考えたからです。
 しかし、TRPGを楽しむ人間のひとりとして、ひとつだけハッキリさせておかなくてはならないことがあります。

 それは、「コンピュータRPGの起源は、TRPGである」ということです。

 元祖RPG(TRPG)は、1970年代にアメリカで発明されるやたちまち人々の人気を集め、あの有名な名作映画「ET」の冒頭シーンにも登場(日本公開時は、日本には馴染みがない遊びなのでカットされたという噂あり:未確認)するほどのメジャーホビーに成長します。
 やがて、1980年代に入ってコンピュータゲームが進歩を見せはじめると、このRPG(TRPG)という面白い遊びを気軽に一人で遊べないかというアイデアが実を結び、「Wizardry」や「Ultima」といった傑作コンピュータRPGが世に出されます。

 ところがこの流れ、日本のホビーシーンでは逆になってしまいました。まず「ドラゴンクエスト」というビッグネームが「コンピュータRPG」を全国に知らしめることとなり、その結果、“「RPG」と言えば「ドラクエみたいなコンピュータゲーム」”という“常識”が構築されてしまったわけです。
 一方の元祖RPG(TRPG)は、細々と一部のゲーム・マニアが遊んでいた程度で、とてもメジャーホビーと呼べるような状況ではありませんでした。その後、日本でもTRPG人口が徐々に増えていったものの、“「RPG」と言えば「ドラクエみたいなコンピュータゲーム」”というそれまでの“常識”を打破できるほどではなく、海外では用いられていない「TRPG」という言葉を用いることで、「RPG」すなわち「コンピュータRPG」と区別するようになったのです。

7.素晴らしきかな、TRPG

 というわけで、「TRPGとは?」という問いかけに対する答えに対する私たちの回答は、少々長ったらしいのですが以下のようなものになります。

TRPGとは、
コンピュータRPGの発想の基礎となったものであり、
共通のルールの下で複数の人間が架空の人物を演じ、
知恵と想像力とコミュニケーション能力を駆使し、
ときに抗えない「運」というランダム要素に翻弄されつつ、
架空世界での物語を楽しむ時間を共有する、
非常に知的かつ創造的な「遊び」である。

 「TRPG」という遊びは非常に多様性が高く、多くの人が自分なりの言葉でこの素晴らしくも取っつきにくい遊びを定義しようとしてきましたが、なかなか「コレだっ!」という確たるものは打ち出せないのが実情です。
 かくいう私たちによる上記の答えも、冗長であるわりには、イマイチTRPGの本質を伝え切れていないような気がします(苦笑)。しかし、私たちなりに、できるだけ分かりやすく説明してみたつもりです。

 もしもこのページが、あなたがTRPGに関心を持つきっかけとなれたなら、そしてTRPGをよく知らない誰かにとっての一助となれたなら、これほど嬉しいことはありません。



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