五條 |
よくファンタジー系のマンガや小説で、メガネをかけた魔法使いが登場したり、窓ガラスをぶち破って屋内に侵入したりするシーンがあるよね。あれってどう思う? 僕なんかは、TRPGで眼鏡とか窓ガラスを登場させることに抵抗があるんだけど。 |
BLACK |
なんだよ、いきなり。 えーと、それはつまり、いわゆる「メガネっ娘」がファンタジー世界で許されるのか、ってことか? |
五條 |
ま、まあそんなところかな(苦笑)。 僕の手元の資料では、窓ガラスやガラス鏡のような板ガラスが本格的に発展を見せるのは15世紀らしいんだよね。 老眼鏡(凸レンズ)はイタリアで13世紀。当初は単レンズだったみたいだね。15世紀ごろにようやく印刷物と共に人々に広まっていくんだけど、それでも高価だった。 近視用眼鏡(凹レンズ)にいたっては、歴史上に登場するのが16世紀なんだよね。 |
サム |
つまり、一般的には中世ヨーロッパ風の世界とされるファンタジー世界に、メガネや窓ガラスがあるのはオカシイ、と言いたいわけだな。 確かに、そういった歴史考証は知識として押さえておいて損はないだろうけど…。その辺はほら、「ファンタジーだから」という便利な免罪符で片付けちゃ駄目かな(笑)? |
デスタイガー |
個人的は、単純に「枠(制限)は少ないほど良い」と思うがね。特にTRPGという「遊び手の裁量に委ねる部分が多い遊び」で、そこまで言い出すと窮屈で仕方ない。 そもそも中世ヨーロッパに魔法やモンスターは実在しないわけだが、だからといってファンタジー世界に魔法やモンスターが登場するのはオカシイなんて誰も言わないだろう。 「中世ヨーロッパ」と「中世ヨーロッパ風」とは、似てるけど違うものだ。 |
五條 |
魔法やモンスターみたいにもとより無かったものと、眼鏡や板ガラスのように実在するものとでは、考証の重要度が違うと思うんだよね。 それがなされているか否かが、シリアス系なのかライト系なのかを分ける境界線じゃないかなぁ…なんて。 |
サム | そう? オレは、適度にリアルで適度に荒唐無稽であることがファンタジーの条件やと思うから、眼鏡や窓ガラスくらいなら存在しても良いと思うな。 |
BLACK |
五條が言わんとするところは分からなくもないが、誰かの作った世界を教科書のように考えるのは良くないのと同じく、歴史上の制約にこだわりすぎるのも良くないんじゃねぇか。参考にはしても基準にしちゃいけない、とでも言うかさ。 あれ? 俺、いま良いこと言ったぞ(笑)。…って、おい。サム、何やってんだ? |
サム | いや、ちょっと気になったから、ググってるんだよ。 |
BLACK | ほう。…で、何か見つかったか? |
サム |
まあね。ネットの情報なので信憑性のほどは良くわからないけど、無色透明なガラスで最古のものは紀元前700年頃に出現した、という記述を見つけたよ。 すでにローマ帝国(西暦467年崩壊)の時代には、大衆浴場に窓ガラスが使われていたらしい。でも、これがどれくらいのサイズの話なのか、その辺りの詳細は分からない。 |
五條 |
ホントだ、採光用の窓みたいだね。 ということは透明だったことは間違いないだろうけど、今みたいな無色透明だったのかなぁ。もしかしたら有色透明だったのかもしれないね。 |
サム |
レンズの原型は紀元前3世紀だそうだ。ただし、物を拡大して見るためのものではなく着火装置だったらしい。 他にも、古代ローマの皇帝ネロが、闘技場見物の際に眩しさを和らげるためにエメラルド製のサングラスを用いたという記録もあるようだ。どんな形をしていたんだろうね。 |
デスタイガー | なかなかにイマジネーションが刺激される話だな。 |
サム |
中国では紀元前後に眼鏡を用いていたようだ。これまた、どんな形をしていたのかは分からないけどね。 どうやら、当時の中国では、ガラスに視力を助ける不思議な力があると信じられていたらしい。 |
BLACK | まさに「ファンタジー」だったわけか(笑)。 |
サム |
それから、眼鏡にまつわる話で面白い記述を見つけたよ。 能力の低下や不足を補う眼鏡などの器具は、当時の教会から敵視されていたんだと。近視や老眼は神が人間に与えたもうたものだから、人はそれを耐え忍ぶべきで、その忍耐を放棄せしめる便利な器具は悪魔の道具だ、と考えられていたようだ。 |
五條 | もしそれが事実なら、そのために、眼鏡の技術開発が本来のテンポより遅れてしまった可能性もあるかもしれないね。 |
サム |
最大限長期間で解釈すると、中世ヨーロッパは4世紀後半〜15世紀あたりを指すよね。 「15世紀まで下りてきちゃうと、もうファンタジーのような気がしないや」と言う人も多いかもしれないけれど、19歳のジャンヌ・ダルクが異端者として火あぶりにされたのが、1431年だからね。 あの時代は、十分にファンタジーっぽいと言えるんじゃないかな。 |
BLACK | じゃあ、中世ヨーロッパ風のファンタジー世界に眼鏡や窓ガラスはありえない、とは言い切れないんじゃねぇか? |
サム |
現実の歴史では、眼鏡が「悪魔の道具」と断じられたために進歩・普及のテンポが遅れた。しかし、眼鏡が弾圧されなかったファンタジー世界では、スムーズに眼鏡が進歩・普及した。 ――そういう「解釈」では、無理がありすぎるかい? |
デスタイガー |
そもそも、なんでもかんでも理由付けする必要なんてないだろう。 「コレは存在しない」という制限が多すぎる世界よりは、「あるかもしれない」というアソビの部分を残した方が、遊ぶ側で広がりをもたせることができる。 眼鏡の有無くらいなら、遊び手が自由に解釈できて良いはずだ。でなければ、知識なきものはいちいち他者から揚げ足を取られながらTRPGを遊ばなくちゃならない。 そんなものが面白いとは到底思えない。 |
BLACK | お、語るじゃねぇか、デスタイガー(笑)。 |
デスタイガー |
先にBLACKが言ったように、歴史考証はアイデアソース程度に考えるべきだ。 私は、現実世界の歴史は多くの偶然から生まれた結果が積もり積もったものだ、と思っている。 もし今ここに地球の原始を用意したとして、同じ時を経過させてみて我々が一部始終を観察できるとしたら、私たちが知る歴史がなぞられるとは限らない。 |
五條 |
なるほどね、その考え方には一理あるかもね。 つまり、僕がGMをやる世界では眼鏡がなくても良いし、みんながGMをやる世界では眼鏡があっても良い、と。 そういう選択の自由を奪わない、ということだね。 |
サム |
そういうことでキレイにまとめとこう(笑)。 歴史やファンタジーに対する考え方や価値観の違いも含むテーマだから、「真の解」は見つからないよ。 |
BLACK | そんなミもフタもない…(笑)。 |
五條 |
それにしても、初期の眼鏡ってヘンテコな形だねぇ〜。 こんな眼鏡をかけた「メガネっ娘」じゃ、萌える人いないんじゃない(笑)? |
BLACK | え、なんで?! この「どんくさい感じ」が良いんじゃないか! |
他の3人 | ………………………(苦笑)。 |
紀元前5000年頃 | 釉薬(ゆうやく:うわぐすり。陶磁器に色味・光沢・撥水性を付加するために上塗りするガラス質の粘液) |
紀元前3000年〜 同2000年紀前半 | エジブト、エーゲ海域:アルカリ石灰ガラスによる小型の装飾品(珠、棒など) |
紀元前2000年紀 後半 | 西アジア、エジプト:ガラス容器 |
紀元前1500年頃 |
北メソポタミア:核となる金属棒などに溶かしたガラスを巻きつけて成形する「コアガラス法」 メソポタミア、エジプト、シリアなど:粘土の鋳型に溶かしたガラスを成形する「型押し法」 *このころは、生活用品というよりは、高価な装飾品であった。 |
古代ローマ帝国 (紀元前27年〜 西暦395年) |
ポンペイ:板ガラス(公共浴場の採光窓) シリア:鉄パイプの先に溶かしたガラスをからめて風船のように息を吹き込んで成形する「吹きガラス法」 *円筒、球形の容器が成形可能となる。 *この時代のガラス製品を総称して「ローマガラス(ローマンガラス)」と呼ぶ。 *ガラスが一般に普及しはじめたのもこの頃。 *窓ガラスが存在。 |
西ローマ帝国滅亡後 (476年〜) |
ビザンチン帝国以外ではガラス文化が衰退 *キリスト教の時代。 *古代ローマ帝国時代に人口に膾炙していたガラスは、再び贅沢品となる。 |
12世紀 |
ビザンチン:ステンドグラス ベニス共和国:ヴェネチアンガラス |
ヴェネチアンガラス 黄金期 (15〜17世紀) |
イタリア(ムラーノ島):クリスタッロ(透明度が高い無色ガラス) *ムラーノ島でのガラス技術は門外不出とされた。 *この頃から工芸品としてのガラスと板ガラスとが分化を始める。 *工芸品:食器、シャンデリア、ランプ、錬金術の器具など。 *板ガラス:窓ガラス、鏡など。 1507年:ダル・ガロ兄弟が、水銀を利用したガラス鏡を発明 1682年:ベルサイユ宮殿「鏡の間」が完成 *ムラーノ島のガラス職人をフランスが「引き抜き」して作らせた。 |
産業革命 (18世紀後半〜) | 人類が「火力」をコントロールしはじめたことにより、ガラス技術が飛躍的に進歩 |
紀元前700年頃 |
ニネヴェ(現在のイラク北方)遺跡:研磨された水晶の平凸レンズ *現存する最古のレンズで、視力を補うためではなく太陽熱を集めるためのものと思われる。 |
紀元頃 |
中国:眼鏡の使用 *実際は度がない眼鏡。 *ガラスには視力を助ける力が込められていると信じられていた。 *サングラスとしても使用していたらしい。 |
古代ローマ帝国 (紀元前27年〜 西暦395年) |
皇帝ネロ(在位=西暦54〜68年):闘技場観戦にエメラルドのレンズを使用 *眩しさから目を守るサングラスのように使用したとする説と、凸型に研磨したレンズであったという説の二通りの説あり。 |
1000年頃 | アラビアの数学者・天文学者アルハーゼン:レンズによる視力補助の可能性を発表 |
13世紀 |
ドイツ:リーディングストーン(石英や水晶でできた平凸レンズ) *本のページの上に乗せて使用していたと思われる。 1285年頃?:眼鏡の発明 *加齢による視力低下は神の賜物だから耐えるべきであり、その辛苦を避けるための道具(眼鏡≒レンズ)は「悪魔の道具」とされた。 |
16世紀 |
足利義晴(1550年没)が眼鏡を所持(日本最古の眼鏡?) 1551年頃:フランシスコ・ザビエルが周防(山口県)の国主・大内義隆に眼鏡を献上 徳川家康(1616年没)が眼鏡を所持(静岡県・久能山東照宮に現存)? *いずれも手に持つタイプのもの。 |
17世紀 |
西洋:スパニッシュイタリアン型眼鏡(紐で耳に留めるタイプ) 日本:長崎ではじめての国産眼鏡製造 *鼻で押さえる器具を考案したのは日本人だといわれている。 |