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不定期コラム

ドワーフ 〜哀しき愛と宿命〜

2007.10.31 記

 ドワーフが好きだ。ギムリが好きだ。ギムが好きだ。
 だが、TRPGにおいて私がプレイヤーをやるときには、あまりドワーフを選択していない。せいぜいが「他のプレイヤーよりはドワーフを選んでいる」という程度なのだ。私自身としても、最近になって初めてこのことに気づいたのだが、これは一体どういうわけだろう。

 思うに、ドワーフという種族は冒頭に挙げた「指輪物語」のギムリや「ロードス島戦記」のギムの存在が、すなわちドワーフという種族の典型例として確立されてしまっているという部分が大きいのではないだろうか。
 頑固。屈強。勇猛。大食感。多弁ではないが酒が舌の潤滑油となる。ぶっきらぼうだが義理堅く厚情。エルフと仲が悪い。細工の技術に長ける。泳ぎは苦手。斧か槌。チェインメイル。楯は持たない。
 ドワーフを端的な言葉で表現すれば、以上のような要素のほとんどが大差なく揃ってしまう。このことについてギムやギムリを断罪する必要はない。彼らの物語中での活躍がドワーフという種族の特性を決定付けたのではなく、そもそもドワーフという種族がそういうものなのだ。
 ドワーフは種として個性的すぎるあまりに、個としての没個性が宿命づけられている。この現実を強引に打破しようとすると、いささかエキセントリックで珍妙な印象を与えるキャラクターになってしまう。

 TRPGにおいてプレイヤーキャラクターを作成しようかというときには、やはり一風変わった個性を持たせたい。それがプレイヤーとしての偽らざる心情であろう。そういう心理が、クラシカルで画一的なドワーフという種族を避けてしまう傾向に繋がっているのではないか。
 いわゆる「人間」は個体差が大きく精神的にも多様な種族であるから、これに照らしてドワーフを云々と言っても仕方がない。しかし、ドワーフと同じデミヒューマンであり一定の「典型」が示しやすいエルフや小人系種族(ホビット、ハーフリングなど)と比較してみても、やはりドワーフのアレンジしにくさは際立っている。
 一人称ひとつとっても、ドワーフは選択肢が少ない。「わし」「俺(俺様)」くらいが関の山である。「私」「ぼく」「おいら」などは特異な設定でもなければ使えない。そして、特異な設定を付加すると途端にギャグっぽいキャラクターになってしまうのは、前述のとおりである。
 エルフが「わし」「おいら」という一人称を用いるとしたら、あるいはホビットが「私」「わし」という一人称を用いるとしたら、やはり違和感はあろう。しかし、さほど無理なくそれなりのキャラクターとしての設定は可能である。

 冷静になってみると、ドワーフはコミカルな容姿の種族である。髭面のオッサン顔でありながら、背丈は子ども並み――つまりいわゆるチビ。しかし、チビのくせしてガッシリ強靭な肉付きで、腹回りにはやや脂を余し気味。
 このどこかユーモラスな容姿と内に秘めたる硬派な精神性とのギャップが、彼らの魅力なのだ。そのバランスを無理に崩そうとするとき(つまり特異な設定を持つキャラクターとして構築するとき)、ドワーフは「茶化されがちな神官」や「自称賢者」や「無謀な突貫女戦士」という姿で、ギャグ担当キャラとして降臨する羽目になる。
 「ロードス島戦記」のギムが「指輪物語」のギムリをもじったネーミングであることは有名な話だ。今になって考えてみれば、このエピソードそのものこそが、ドワーフという種族の「典型から逃れられない宿命」を暗喩していたと言ってみるのは、お遊びが過ぎるか。

 ドワーフという種族がかくも確固たる特性で語られる種族であることを、ドワーフを愛する私は喜ぶべきなのかどうか分かりかねている。極めて個性的ではあるけれど、ヴァリエーションに乏しく、底が浅いとも言えるからだ。
 しかし、私自身が齢を重ねるにつれ、ひとつ思うところがある。
 いい歳こいたおっさんが、キラキラした瞳の少年少女やラヴリーな小人なんぞをプレイするのは苦しいものだ。その点、ドワーフであれば、まさに「おっさんっぽい種族」でる。ステレオタイプな個性ゆえに、無理なくキャラプレイもできる。そう考えると、私のようなロートルプレイヤーにとっては、実はドワーフはとても有難い種族なのかもしれない。

 以下、余談。
 小説・アニメ・ゲームなど、様々なメディアへの展開を見せてきた「ロードス島戦記」だが、もともとはTRPGのセッション風景を文字ベースで再録・編集して雑誌上で公開された「リプレイ」に端を発する。当時、パソコン雑誌であった「コンプティーク」誌上に唐突に掲載されたTRPGの記事は、若干の違和感と好奇心をもって迎えられ、好評のうちに連載を重ねていった。
 その実際のセッションにおいてギムのプレイヤーを務めたのは、かのグループSNEの御大こと安田均氏その人であった。氏のドワーフ好きは、TRPGを好む者たちの間ではよく知られている。

(サム)


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